生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

高額医薬品ニボルマブ(オプジーボ)の価格はどう決められたのか

小野薬品工業が Medarex社(アメリカ)との共同研究により開発し、ブリストル・マイヤーズ社(アメリカ、Medarex社の親会社)と共同販売を行っている医薬品ニボルマブ(製品名 オプジーボ点滴静注20mg)は、悪性黒色腫(メラノーマ)、肺がんなどの各種がんへと使用されている、あるいは適用が見込まれている有望な新薬です。

従来型の化学構造で記述される抗がん剤とは異なり、ニボルマブはモノクローナル抗体医薬品という、新しいメカニズムで作用する医薬品です。

ある種のがん患者に対する臨床試験では、1年生存率が従来の抗がん剤の20%台がニボルマブでは40%台にまで向上するなど、かなり有望な効果が立証されています。

薬理作用や効用については、以下の資料を参考にしてください。

ニボルマブ―日本の研究が生んだ抗体医薬
オプジーボ(一般名:ニボルマブ(遺伝子組み換え))作用機序 | オプジーボ.jp


ニボルマブについて、その効果は大きいものの、費用が極めて大きく、将来的には国家財政への影響も無視できないレベルであると危惧する声が上がっています。

bylines.news.yahoo.co.jp
toyokeizai.net

ニボルマブの薬価は驚くほど高いのは事実でして、平成26年9月の新医薬品一覧表によると、点滴用の薬剤が 20 mg で 150,200 円、100 mg で 729,849 円 という価格になっています。

ニボルマブの用法・容量によれば、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対して 3 mg/kg(体重) を2週間間隔で点滴」とありますので、体重 60 kg の患者1人が1ヶ月に使用するニボルマブの価格を計算すると、恐ろしいことに二百七十万円という高額になります

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日本では「高額療養費制度」のおかげで、患者の自己負担額は数万円~10万円強で済みますが、代わりに健康保険協会などが負担することになるため、マクロに見れば社会全体でこの費用を負担する必要があることには変わりありません。

この記事中の試算によれば、仮に想定される肺がん患者全て(15,000人)がニボルマブを使用すれば、6,300億円という金額になります。
日本中の大学・研究所の研究活動を支えている科研費の1年間の総額が 約2,600億円(平成23年度)なので、いかにこの金額が大きいかが実感できます。

そして、この種の高額な医薬品が次々に認可され使用されるようになれば、簡単に兆を超える国家財政規模の金額が必要になってしますわけです。

今回は、どのようにしてこのような高額な価格が決められたのかを調べてみました。

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