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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

諸熊奎治先生 文化功労者に選ばれる

本日、文化功労者に理論化学・計算化学分野における大家である諸熊奎治(もろくま けいじ)先生が選ばれたというニュースがありました。

ONIOM法の開発者

諸熊先生はGaussian等の分子軌道(MO)計算プログラムに実装されているONIOM法の開発者として有名であり、現在でも78才という年齢とは思えないほど精力的に研究活動を行っておられ、国内外の化学関連の学会でよく招待講演をされています。
http://kmweb.fukui.kyoto-u.ac.jp/top/jp/index.html

「定年研究者のための研究費精度を」という提言もされています。
http://www.chemistry.or.jp/kaimu/ronsetsu/ronsetsu0711.pdf (PDF注意)

ノーベル化学賞の受賞候補者としてもリストアップされています。
http://www.chem-station.com/blog/2007/09/20075.html

なお余談ですが、諸熊先生のWebサイトには、フロンティア軌道理論でノーベル化学賞を受賞された福井謙一先生を含む日本の量子化学者の系譜がまとめられている資料がありますので、この分野に関連のある方は是非一度見ておくとよいと思います。
http://kmweb.fukui.kyoto-u.ac.jp/top/jp.qc.geneology.pdf (PDF注意)

過去の被引用件数が多い論文

諸熊先生はONIOM法の開発者であり、ここ数年の研究内容については学会発表を何度も聴いているので知っているのですが、過去の諸熊先生の業績についてはさほど知らなかったためこれを機に調べてみました。

Web of Knowledge において諸熊先生が著者となっている論文を検索し、被引用数の多い順にチェックし、おおまかな内容をまとめました。
もし私の勘違い、間違い等ありましたらご指摘くださると嬉しいです。

1. NEW ENERGY DECOMPOSITION SCHEME FOR MOLECULAR-INTERACTIONS WITHIN HARTREE-FOCK APPROXIMATION

著者名: KITAURA, K; MOROKUMA, K
出版物名: INTERNATIONAL JOURNAL OF QUANTUM CHEMISTRY 巻: 10 号: 2 ページ: 325-340 DOI: 10.1002/qua.560100211 発行: 1976

まずトップに出てきたのは1976年の論文です。
ハートリーフォック法で求めた分子軌道をベースにして分子間相互作用エネルギーを算出する手法を開発したという内容であり、水二量体でのエネルギー分割および電子密度分割の計算例を示しています。
後にフラグメントMO法(FMO法)を開発された北浦先生との共同執筆になっており、FMO法でフラグメント間相互作用を算出する際の理論ベースになっています。

2. IMOMM - A NEW INTEGRATED AB-INITIO PLUS MOLECULAR MECHANICS GEOMETRY OPTIMIZATION SCHEME OF EQUILIBRIUM STRUCTURES AND TRANSITION-STATES

著者名: MASERAS, F; MOROKUMA, K
出版物名: JOURNAL OF COMPUTATIONAL CHEMISTRY 巻: 16 号: 9 ページ: 1170-1179 DOI: 10.1002/jcc.540160911 発行: SEP 1995

2番目は1995年に発表された論文です。
ab initio計算とMM計算を組み合わせて分子の最安定構造および遷移状態構造を計算するための手法IMOMM法を開発した論文です。
このIMOMM法はONIOM法の原型となっています。

3. MOLECULAR ORBITAL STUDIES OF HYDROGEN BONDS .3. C=O H-O HYDROGEN BOND IN H2CO H2O AND H2CO 2H2O

著者名: MOROKUMA, K
出版物名: JOURNAL OF CHEMICAL PHYSICS 巻: 55 号: 3 ページ: 1236-& DOI: 10.1063/1.1676210 発行: 1971

3番目は1971年の論文です。
ホルムアルデヒド(H2C=O)と水(H2O)の間の水素結合を含む系の量子化学計算を行い、C=O・・・H の角度や水素結合エネルギー等を算出した論文です。
今だったらGaussianを使えばパソコンで一瞬で終わってしまう計算ですが、当時(1971年)としてはこの計算でも相当大変だったんでしょうね。

4. ONIOM: A multilayered integrated MO+MM method for geometry optimizations and single point energy predictions. A test for Diels-Alder reactions and Pt(P(t-Bu)(3))(2)+H-2 oxidative addition

著者名: Svensson, M; Humbel, S; Froese, RDJ; et al.
出版物名: JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY 巻: 100 号: 50 ページ: 19357-19363 DOI: 10.1021/jp962071j 発行: DEC 12 1996

4番目に1996年のONIOM法の論文が出てきました。
さきほど出てきたIMOMM法はMO1階層+MM1階層、また別のIMOMO法ではMO1階層+別のMO1階層と2階層の手法だったのに対し、ONIOMでは高レベルMO+低レベルMO+MMの3階層ONIOM3といった具合に多階層の計算ができる点が拡張になっています。
計算例としてONIOM3(CCSD(t):MP2:MM3)という3階層の計算を示しています。


また単純な被引用回数とは別に、大きな業績として1968年に水二量体の構造を初めて明らかにしたという記述がwikipediaにありましたので、その論文についても述べておきます。

MOLECULAR-ORBITAL STUDIES OF HYDROGEN BONDS . AN AB INITIO CALCULATION FOR DIMERIC H2O

著者名: MOROKUMA, K; PEDERSEN, L
出版物名: JOURNAL OF CHEMICAL PHYSICS 巻: 48 号: 7 ページ: 3275-& DOI: 10.1063/1.1669604 発行: 1968

水二量体の安定構造を初めて報告した論文です。
安定構造が下図の3種類のどの構造が不明だった時代に、実際に最も安定なのはlinear構造だと決定したという点で画期的だったようです。