生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

なぜ凝固点降下・沸点上昇なのか

液体に不揮発性の溶質を溶かすと、凝固点は降下し、沸点は上昇します。
例えば水に塩を溶かすと、凝固点は±0℃から−0.2℃のように下がり、液相の状態をより低い温度でも保つようになります。

今回はなぜ逆の「凝固点上昇・沸点降下」ではなく「凝固点降下・沸点上昇」が起こるのかを解説します。

液相では水と溶質が混ざりエントロピー的に安定化する


水に溶質(塩や砂糖等)が溶けると、水と溶質が混ざり合って系の乱雑さが増します
乱雑さが増すということは、エントロピーが増加することに相当し、溶液が安定化します
(式で表すと、自由エネルギーの定義 F = E - TS(Fは自由エネルギー、Eは内部エネルギー、Tは温度、Sはエントロピー)でSが大きくなることで自由エネルギーFが小さくなる、つまり自由エネルギー的に安定化することに相当します)
もっと直感的には、自然はエントロピーが増大する方向に変化する(ごちゃごちゃに混ざった状態に向かう)ため、水と溶質が混ざり合った状態のほうが自然が好む安定な状態であるということもできます。

それに対し、水が氷になると水は水分子のみが集まって結晶化し、溶質は氷から追い出されます
そのため水と溶質が混ざり合うことによるエントロピー的な安定化がありません

これにより液相のみが水と溶質の混合によってエントロピー的に安定化し、より低い温度でも凍ることなく液相のままでいることが可能になる凝固点降下が生じます

同じ議論が気相と液相の間でも成り立ちます。
今は不揮発性の溶質を考えていますので、気相でも固相と同様に水と溶質が混ざり合うことによるエントロピー的な安定化がありません
そのため液相のみが水と溶質の混合によってエントロピー的に安定化し、より高い温度でも気化せずに液相のままでいることが可能になる沸点上昇が生じます

参考文献

統計熱力学や物理化学の教科書に当たりましょう

アトキンス 物理化学要論 (第5版)

アトキンス 物理化学要論 (第5版)

水と氷の構造の違いを動画で見る

ずいぶん昔に作った動画ですが、水と氷の構造の違いがわかります
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