生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

分子シミュレーション実行時には光学異性(キラリティ)に気を付ける必要あり

炭素原子にそれぞれ異なる4つの原子・置換基が結合すると、その炭素原子はキラル中心(不斉中心)と呼ばれます。
キラル中心が1つだけ存在する分子は、右手と左手のように重ね合わせることができない光学異性体(R体/S体、互いの関係はエナンチオマーと呼ばれる)を生じ、キラリティと呼ばれます。

純粋な光学異性体と、混合物であるラセミ体は異なる物理的性質を示す

光学異性の関係にあるR体/S体の分子は、旋光性、キラル分子同士の相互作用を除くほとんどの物理量は全く同じ性質を示します。
実際にR体のみ/S体のみを純粋に抽出した光学異性体を比較すると、物理量の違いはみられません。

その一方、R体/S体が混ざっている場合(特に同じ比率50:50である場合をラセミ体と呼ぶ)は、純粋なR/S体の光学異性体と異なる物理的性質を示します。
実際に分子動力学シミュレーションにより、1,2-dimethoxyethane(DME)の純粋なR体溶液と、ラセミ体溶液の物理量の違いが計算されています。
Structure and dynamics of 1,2-dimethoxyethane and 1,2-dimethoxypropane in aqueous and non-aqueous solutions: A molecular dynamics study

このシミュレーション研究(温度 298 K)で得られた物理量は以下のように異なっています。

物理量 ラセミ体 100% R体
密度(kg/m^3) 841.5±8.5 828.6±4.9
蒸発熱(kJ) 35.4±0.1 30.3±0.1
拡散係数(10^-9 m^2/s) 3.6±0.1 3.6±0.2

純粋な光学異性体とラセミ体ではこのように密度等の物理的性質が異なりますので、キラリティを持つ分子のシミュレーションを行う際には光学異性の条件に気を付ける必要があります。

ハート基礎有機化学

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