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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

水の第4の相

ギズモードでやや釣りっぽいタイトルの記事
南極で未知の存在「第4の重い水」が発見される!
がありました。
実際は南極大陸沿岸の3か所で生成される南極低層水に関して、これまで未知だった第4の生成ポイントが見つかったという内容でした。

今回はこの記事に対抗してワシントン大学のGerald H. Pollack教授が提唱する「水の第4の相」について紹介しておきます。
私は以前Pollack教授のセミナーに参加して、水の第4の相というものを初めて知りました。

(本記事中の図は別途記述がない限りPollack教授が執筆中の本「The Fourth Phase of Water: Beyond Solid, Liquid, and Vapor」のドラフトから引用したものです)

通常、水が示す3つの相:気体(水蒸気)、液体(水)、固体(氷)

常識的には水は気体である水蒸気、液体である水、固体である氷の3つの相をとります。
これらの相は温度・圧力条件に応じて変化し、「【MD動画】水の蒸発」で示したように相間で分子の入れ替わりが起こります。

(なお、先日の記事「超臨界水の構造」で紹介した超臨界状態は「相」としては見なされません。)

水の第4の相 Exclusion Zone (EZ):水の界面に生じる新たな相

Pollack教授は、水には気体・液体・固体とは別に「第4の相」が存在すると主張しています。
この第4の相は水の界面(例えば水と空気の界面、水とガラスの界面、水とゲルの界面)に生じる通常の水とは異なる性質を示す領域を説明するための言葉として用いられています。

具体的には、界面領域からは水以外の分子が追い出されるという観測結果があります。
Pollack教授はこの領域を「Exclusion Zone (EZ)」と呼称しています。


Exclusion Zone (EZ)の概念図


親水性ゲル表面から微粒子が追い出される様子(http://faculty.washington.edu/ghp/research-themes/water-science/ に動画があります)

上に示した図では、親水性ゲルと水の界面から水中に浮遊している微粒子が追い出されている様子が示されています。
さらにEZ領域内は負に帯電していることが測定されています。
EZ領域の幅は〜100マイクロメートル(0.1ミリメートル)程度です。

これと同様の現象は水−空気間界面等でも測定されています。

第4の相の分子レベルでの構造

この第4の相は分子レベルでどのような構造をとっているのかは極めて興味深い疑問です。

Pollack教授はさまざまな測定結果から、氷の六角形構造に似た構造をとっていると推定しています。


(左)EZ領域の想定される構造、(右)氷の六角形構造

EZ領域が負に帯電していることは、氷を形成している水分子からH+をいくつか取り除き、その分だけ氷が圧縮されたような状態になっているためと解釈しています。

第4の相という表現は許されるのか

界面でEZ領域とされる通常の水とはことなる性質をもつ領域が存在することはわかりますが、これを「第4の相」と表現することについては疑問があります。

セミナーでは、熱力学的な視点から「ギブスの相律」を考慮すると、水に4つの相があるのはおかしいという質疑がありました。
これに対しては、水(H2O)は純粋にH2Oの状態でいるわけでなく、オキソニウムイオン(H3O+)も混ざった二成分系と考えればよいのではないかという回答がありました。

個人的には「第4の相」という概念は極めて興味深く感じますが、分子レベルから考えると本当にそうなのか?という疑問はぬぐいきれていません。
今後のPollack教授の研究の進展に期待しています。