生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

He原子の6-12レナードジョーンズ相互作用項の分子軌道計算による算出を試みた

ヘリウム(He)原子を含む系のMD計算を行おうとしたところ、AMBERのGAFF汎用力場にHe原子の6-12レナードジョーンズ(LJ)相互作用パラメータが存在せず、さらに少し調べた範囲では数値が出てこなかった。(Universal Force Field の論文にはLJ関数パラメータの数値が載っていたが、反発部分が12乗でなく15.4乗になっていたため、そのままAMBERで使えない)
そこでGaussianでの分子軌道(MO)計算による算出を行った。
He2分子系に対し構造最適化を行い平衡距離を算出し、さらに複数の原子間距離でエネルギーを算出することで安定化エネルギーの大きさを算出することで、6-12 LJパラメータを決定した。

Gaussian03によるHe2分子系の構造最適化

以下の入力ファイルによりGaussian03での構造最適化計算を実行し、平衡距離3.3856Åを得た。He2原子と小さい系なので、計算は数秒で終了した。

%nproc=4
# QCISD/6-311+G(d) opt

Untitled-1

0   1
He 0    0.000000    0.000000    0.000000
He 0    0.000000    0.000000    3.500000

様々なHe-He距離でエネルギーを算出し、結合エネルギーを見積もる

さらに様々な原子間距離で一点計算を行うことでHe-He距離に対するエネルギーカーブを描画し、結合エネルギー0.00152 kcal/molを得た。以下は距離3.5Åの場合であり、入力原子座標を変えて複数回のGaussian03計算を行った。

%nproc=4
# QCISD/6-311+G(d) 

Untitled-1

0   1
He 0    0.000000    0.000000    0.000000
He 0    0.000000    0.000000    3.500000

得られたエネルギーカーブと6-12 LJパラメータ

得られたエネルギーカーブと、He-He平衡距離3.3856Å、結合エネルギー0.00152 kcal/molから得られる6-12 LJ関数をプロットした。

分子軌道計算で得られたエネルギーカーブと6-12 LJ関数はかなり大きく乖離している。
これはHe原子特有の性質、あるいはMO計算手法に問題があった可能性もある。
もしこのMO計算結果が正しいならば、6-12型の関数ではなく、モース型等の別の関数形を考える必要がある。
GAFFにHe原子のLJパタメータが存在しないのは、今回の結果のように6-12の関数形ではLJ相互作用を正しく表現できないからかもしれません。

(そのまま研究での本格的な計算にはこの結果は使わないでくださいね。今回の目的では正確なパラメータでなくても構わないので、これを使おうとおもいます)

モース関数へのフィッティングならば見事にMO計算結果を再現できます

追記(2012/11/15)

ヘリウムのLJパラメータは ε = 10.22K (0.02 kcal/mol), σ(E=0の距離)= 2.58Å とありました。
http://www.mech.shibaura-it.ac.jp/lecture/material_free/Energy/2007/ENE_0706.pdf (PDF注意、これの2ページ表)
私の計算値は半径が大きく、結合エネルギーが1ケタ小さくなっています。

またヘリウムダイマーのMO計算の論文も見つかりました。
きちんと計算すれば上記のLJパラメータと一致するようです。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166128001005000#