生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

化学と工業2012年12月号の内容

目次は http://www.chemistry.or.jp/journals/kakou/cimok/ci12-12.pdf で見れます(PDFです)。

ペットケアの科学 p.927-

ここ数年の犬・猫の飼育数は増えており、犬が1200万頭、猫が950万頭という数になっている。中高年の子育てを終えた世代がペットを飼う比率が高く、ペットにかける支出も多くなっている。
世界中でペットフードを含む食品を販売するマース社はペットケアの研究を行っており、1975年には犬の必須アミノ酸を特定した(ヒトの8種の必須アミノ酸+アルギニン+ヒスチジン)。さらに猫はアミノ酸合成代謝経路が退化しているため、アミノ酸の味を好み、犬よりフードのより好みが激しい。
ペットのトイレ、特に猫の尿は臭いがきついが、これを改善するために花王は猫用トイレ「ニャンとも清潔トイレ」を開発した。

花王 ニャンとも清潔トイレ セット ブラウン オープンタイプ

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猫の尿の主な臭い成分は吉草酸などの脂肪酸だが、これら脂肪酸は針葉樹に含まれる成分と親和性が高いので、針葉樹のチップを利用することで臭いを抑えている。(下図はWikipediaより引用)

またペット用の薬開発はさほど行われておらず、ヒト用の薬が転用されることがある。その際にペットに使いやすいように改良が行われている。例えば耳内に使用する抗生物質の流動性を高めることで、ペットの耳の奥まで薬がいきわたるようになった。

地方名産品の化学1 りんごの貯蔵技術 p.932-

青森県産りんごは国内生産の半数以上(平成23年は36万トンで56%のシェア)を占め、収穫の行われる9−11月に限らず、1年中出荷されている。この背景には優れた貯蔵技術がある。

優れた貯蔵技術としてCA(Controlled atmosphere)と鮮度保持剤がある。CAは冷蔵庫内のO2濃度を下げ(1.8-2.5%)、CO2濃度を上げる(1.5〜2.5%)ことでりんごの呼吸を抑制し、鮮度を保持する。鮮度保持剤は1-MCPが有効成分となっており、エチレン受容体に1-MCPが結合することで成熟を遅らせることができる。

りんご貯蔵時には様々な種類の貯蔵障害が起こり、その多くは果肉のみつ部分で生じる。酸化ストレス環境で生じる過酸化水素等の活性酸素種が障害の原因となっていると考えられ、過酸化水素を取り除くサイクルに必要なアスコルビン酸がみつ部分に少ないことが、みつ部分で多くの障害がおこる原因と考えられる。

シャイニー ねぶたりんごジュース 250g×30本

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地方名産品の化学2 デニムリサイクル p.935-

岡山県倉敷・笠岡を中心とする備南地域は日本を代表するデニム生産地である。
デニム2枚=1kgを焼却すると1.5kgのCO2が排出されるため、デニムを粉砕し壁面緑化用の固化培地へのリサイクルを行った。

地方名産品の化学3 色彩豊かな宝石「めのう」 p.938-

山梨県は、全国の宝飾製品出荷額の1/3を占める日本一のジュエリー産地である。
めのうはSiO2から成る石英質の鉱物であり、潜晶質(微細な結晶の集合体)である。様々な色のめのうが販売されているが、天然のめのうはさほど鮮やかな色はしておらず、カラーめのうの大半は人工的に着色されている。

潜晶質であることから、めのう内部には結晶間の微小な空間があり、色素を浸透させることで色をつけることができる。一般に着色は、遷移金属イオンを含む第一液と、それらと反応する第二液に浸漬した後、加熱することで行われる。例えば硝酸コバルトを第一液、アンモニアを第二液とするとめのう内部で水酸化コバルトの青色沈殿が生じ、青色めのうとなる。この着色は通常常温・大気圧下で半年から1年かけておこなわれるが、80℃の高温で着色すればより短時間で着色が可能となる。

地方名産品の化学4 別府温泉の化学 p.941-

大分県にある別府温泉は日本で最も規模の大きな温泉地であり、温泉水量、源泉数では全国2位である湯布院の数倍と圧倒的に大きい。

酸素原子と水素原子の同位体測定から温泉の水は雨水に由来することが分かる。また推定される涵養域は断層上に位置しており、雨水やCO2等のガスの供給に活断層が大きな役割を果たしていることがわかる。

大量の温泉水が河川に放流されているため、河川では温泉に由来する有毒な重金属(例えばヒ素)濃度が環境基準値以上に高くなっている。そこで温泉に多く含まれ、金属市場での取引額の大きなリチウム、セシウムルビジウム(河川への排出量は34, 0.4, 5.4トンと見積もられている、ルビジウムの単価は2400円/gなので、全て回収できればルビジウムだけで約130億円)などを集め、それで得た資金で有害元素除去設備の整備を行う地産地消的方法を検討してはどうかと提案している。

温泉科学の最前線

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温泉科学の新展開

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