生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

「経済政策で人は死ぬか?」は政治家全員に読んでほしい本です

前々から気になっていた本を読み終えました。

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

過去の経済不況(最近のものだとサブプライムローンに端を発したリーマンショック、あるいはそれ以前だとソ連崩壊後のロシアや1990年代後半に生じたアジア通貨危機など)の際に、各国政府が行った政策を一種の臨床試験とみなし、主に政府支出を削減する「財政緊縮策」と、あえて不況時に政府支出を増やす「財政刺激策」を比較し、何が起きたのかを調査した成果が読みやすくまとめられています。

財政緊縮策を行った国では、多くの人々が仕事を失い、健康を損ない、死んだ。そして経済は回復しなかった。

財政緊縮策を採用した国々(ソ連崩壊後のロシア、アジア通貨危機後のタイ、インドネシア、そしてリーマンショック後のギリシャ)では、IMFからの融資を受ける際の条件として、とにかく国の財政を建て直すという名目で政府はあらゆる支出を削ることを迫られました。

そしてその結果は惨憺たるもので、財政緊縮による予算削減の結果、不況で職を失った人々に対するサポートが削られ、蚊が媒介する伝染病やエイズなどを予防する予算も削られ、結局のところは多くの人々が健康を損ない、そして万を超える単位の人々が死ぬ結果に終わりました。
つまり平均寿命の低下や、自殺者の増加という形で国民の「血」が流されたわけです。

この犠牲で経済が立ち直ったのであればまだ救われる部分があるのかもしれませんが、実際には職を失い生活保護のような福祉に頼りっぱなしになる、あるいは病気で働くことが不可能になった人々があふれることで、税収は減り福祉予算は増大し、国家財政も経済状況もボロボロの状況が長期間に渡り継続するという有様となりました。

財政刺激策を行った国では、失業者は仕事や家を保つことができ、死者は増えなかった。そして経済は早く回復した

一方で財政刺激策を採用した国(アジア通貨危機後のマレーシア、リーマンショック後のアイスランド)では、あえて失業者対策などの予算支出を増大させました。

当初は支出する予算が増える分の予算調達の困難さはあったものの、失業者対策を手厚く行うことで失業者の数を減らしたり、新たに病気にかかる人の数を増やすことなく保つことが可能でした。

その結果、不況による税収の落ち込みが最低限に押さえ込まれ、新たに病気になる人も少なく済み、景気も国家財政も緊縮財政策をとった国よりも早く回復することができたわけです。

政治家の先生方全員に読んでほしい本です

この本は、国の経済政策がいかに国民全体の幸福(健康状況、雇用状況)に影響するのかを理解する上で極めて良い内容となっていますので、是非政治家の先生方全員に読んでほしいと願います。

「日本は借金が多いから、福祉予算を削るべきだ」という主張は様々な政治家の人が口にするところですが、そのような緊縮政策が何をもたらすのか、少なくとも「副作用」としてどれだけ人々の健康、命を犠牲にするのかをキチンと理解して頂きたいところです。

その上で、せめて予算を削るにしても、失業者に対する支援措置、あるいは生活保護のような社会的弱者に対する支援を削るような愚行は避けてもらえれば・・・と願うところです。