生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

行動制限、財政支出、死亡者数 コロナ対策でどれを犠牲にする?

日本政府はコロナ患者数増加に対する批判に押される形で、年末年始期間のGoToキャンペーンを全国的に停止することを決定しました。

すると今度は、GoToキャンペーンで持ち直していた宿泊施設が苦境に立たされる、という声が上がるようになりました。

また、様々な形でコロナ対策の支出が嵩み、国家財政が危機に落ちっているという声も上がっています。

この機会に、コロナ対策の定量的指標となる3つの要素をまとめて、これら全てを守り切ることはできない、という考察をしておきます。

3つの指標 行動制限、財政支出、死亡者数

これまでの日本では、コロナ対策として生活習慣を変容させる「三密回避」「マスク着用」「会食、カラオケなど高リスク行為の回避」といった呼びかけが功を奏し、10月頃まではなんとかコロナを抑え込むことに成功していました。

ところが、冬の到来とともに上記呼びかけだけでは抑えきれないほどにコロナが広がりつつあります。
この状況でどのような施策を打つべきなのかを考えていく必要があります。

このとき政策を選ぶ指標としては以下の3つを想定することができます。

1.行動制限 
2.財政支出
3.死亡者数

この3要素に対しどのようなバランスで政策を打ち出していくのか、という観点で考えをまとめていくことができます。
これら3要素をシミュレーションゲームなどでよくあるスライダーで表示しながら考えてみます。

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1.行動制限

春によく聞いた「接触の8割削減」という言葉に代表されるように、人の動きを止めることがコロナ対策としては有効です。

一番極端で、かつコロナを抑え込むには極めて強力な施策としては「ロックダウン」がありますが、経済的ダメージが極めて大きいということで、極力避けたい施策となっています。

今の日本は、飲食店に対して午後10時以降の営業自粛を要請、あるいはGoToキャンペーンの一時停止などで行動制限を徐々に強めている段階です。

2.財政支出

行動制限などを行う際には、営業を自粛する店舗に対して協力金を支給するなど、追加で財政支出が行われます。

また、コロナの蔓延により医療機関を受診する患者が減っているなどの要因があり、コロナ患者の治療を行う医療機関に対してもかなり大きな財政的補助が必要となっています。

他にも、春に行われた日本の全住民に対する1人10万円の特別定額給付金の支給など、様々な形で日本の財政支出が増大し、財政赤字も増大しています。

3.死亡者数

コロナに罹った人の一部は、最悪の帰結として死亡してしまいます。

コロナによる被害を定量化する数値としては様々なものが想定されますが、一番わかりやすい指標として死亡者数を考えることにします。

感染症は対策を打たずに放置すると指数関数的にすさまじいスピードで蔓延し、「8割おじさん」が行った最悪の場合の試算としては42万人が死亡する、というものでした。
この数値は、東日本大震災の死者数がおおよそ2万人ということを考えると、とてつもない数字であることがわかります。

また、コロナの影響で失業した人などの一部は経済的苦境をもとに自殺を選んでしまう、ということも起こります。

これらコロナによる、あるいは経済的苦境による死亡者数をいかに抑え込むのかが大きな指標となります。

3要素を同時に最小限に抑えることはできない

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行動制限、財政支出、死亡者数の各要素について考えると、行動制限はなるべく弱く、財政支出はなるべく小さく、死亡者数はなるべく少なくしたいということになります。

しかしながら、これら3つを同時に抑えられるような政策は存在しなさそうだ、ということが以下の考察で分かります。

パターン1:行動制限をせず、財政支出もしなければ死亡者数が膨れ上がる

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これはまさに「何も対策を打たなければ42万人が死亡する」というコースになります。
さすがにこれは許容されないですね。

パターン2:ロックダウン、ただし財政支出なし

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とにかくコロナの蔓延を抑えることを目的として、強力な行動制限としてロックダウンを実行します。
ただし、国家財政には余裕がないということで、宿泊業者・飲食店などに対しては何ら財政支出を出さないものとします。

この場合、コロナを抑え込むことはできますが、業者の多くが破産して、失業者があふれて経済的苦境を背景に自殺者が急増することが予想できます。
また、日本では法律的に休業を強制できないため、経済的苦境に陥っている飲食店などはロックダウンを無視して営業するケースが続出し、コロナを抑え込め切れないリスクも残ります。

パターン3:ロックダウンをして、潤沢な財政支出

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とにかく死亡者数を最低限に抑えたい、という場合はロックダウンを実施し、さらに企業の倒産などを防ぐための潤沢な財政支出をする必要があります。

この場合は相当な金額の財政支出が必要となり、相当額の赤字国債の発行が必要となり、国家財政の借金が膨れ上がるという結果になります。

パターン4:行動制限はかけずに、潤沢な財政支出

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あまりありそうにないですが、3要素の組み合わせとしては、行動制限は一切せずに、財政支出は潤沢に行うという政策も考えられます。

行動制限をしないということですさまじい数のコロナ患者が発生しますが、コロナ患者を受け入れる医療機関に対して潤沢な金額を与えることで病床数を増やし、なんとか対処するという考えです。

ただしこれを実行しても、コロナ患者を適切に治療可能な技能を有する医療従事者の数は限られていますので、いくら大金を積んだところで追加できる病床数は限られています。
また、コロナ患者に対する特効薬は存在しないので、治療を行ったとしても救命しきれない患者はかなりの数に上りますので、パターン1の無策の場合よりは若干マシな程度の死亡者数になると見込まれます。

どれを犠牲にする?

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結局のところ、有効なワクチンがいきわたるまでは、3要素全てを同時に抑えることは不可能です。
そのため、政府の政策に対しては、3要素いずれかに着目をすることで、いつでも以下のような批判のいずれかを行うことが可能となります。

  • コロナ患者が増えているのは政府の無策のせいだ
  • 飲食店・宿泊業者が経済的に苦境に立たされているのは政府の無策のせいだ
  • コロナ対策で国の借金が膨れ上がっている、これは政府の無策のせいだ

コロナが猛威を振るっている間は、3要素の少なくとも1つは犠牲にする必要があります。
ですので、どの要素を重要視し、どの要素についてはある程度犠牲にせざるを得ない、ということを考えて、建設的な批判を行っていただきたいな、と願っております。