生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

メールサーバの .imap.index が壊れたことに由来するメール送受信エラー対応

Linuxメールサーバの挙動がおかしかったため再起動をしたところ復旧したのですが、特定ユーザのみメール送受信がタイムアウトしてしまいうまくいかない現象が起きました。

メールサーバは Postfix + Dovecot による構成です。


メールのログファイル /var/log/maillog を見たところ、pop3, imap接続の両者で以下のエラーメッセージが出力されていました。
(メールサーバ名 mailserver、ユーザ名 user1)

Mar  3 14:02:31 mailserver imap-login: Login: user1 [::ffff:192.168.1.2]
Mar  3 14:05:01 mailserver imap(user1): Timeout while waiting for release of shared fcntl() lock for index file /home/user1/mail/.imap/INBOX/.imap.index

Mar  3 14:16:05 mailserver pop3-login: Login: user1 [::ffff:192.168.1.12]
Mar  3 14:16:46 mailserver pop3(user1): Timeout while waiting for release of shared fcntl() lock for index file /home/user1/mail/.imap/INBOX/.imap.index


どうやら .imap/INBOX/.imap.index ファイルがおかしいようです。
(再起動した際に.imap.indexファイルが壊れた可能性がありそうです)


.imap.index ファイルは存在しなければ dovecot により再生成されるという記述がありましたので、エラーの原因となっている.imap.indexファイルを削除しました。

その結果、送受信のタイムアウトエラーは解消し、user1も無事メールサーバを利用できる状態に復旧することができました。

windows版VMD(32bit)の利用できるメモリ量を2GBから4GBに増やす

分子動力学計算結果の可視化などに用いられるプログラムVMD - Visual Molecular Dynamicsは Linux版、MacOS版、Windows版 が配布されています。

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なんだかんだでWindows版が一番使いやすいのですが、残念ながらWindows版は32bit版であり、64bit OSであっても利用できるメモリ上限が2GBに制限されてしまっています

そのため、大きなデータを読み込むとメモリ不足に由来すると思われるエラーで落ちてしまいます。

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メモリ不足によるエラーメッセージ winvmdは動作を停止しました


根本的には64bit版が公開されるのを待つしかないのですが、ちょっとした操作をすることで利用できるメモリを倍の4GBまで増やすことが可能です。

参考:64bit Windowsを前提とした32bitアプリケーション延命法 ~ LAAオプションで32bitアプリケーションのメモリ不足問題を解消 | OPTPiX Labs Blog

VMDプログラムへの4GB化パッチの実行

まず下のサイトから4GB化を実現するパッチプログラムをダウンロードします。
NTCore's Homepage

このプログラムは実行プログラム先頭部のヘッダ情報を書き換えて LARGEADDRESSAWARE のフラグをONにするものです。
このフラグにより64bit OSで実行される場合、使用できるメモリ量を4GBまで増やすことができます。
(VMDに限らずすべての32bitプログラムにこのプログラムは適用可能です)

そしてこの4GB化パッチプログラム 4gb_patch.exe を解凍、起動し、インストールしたVMDの実行プログラム(デフォルトのままインストールしていれば "C:\Program Files (x86)\University of Illinois\VMD\vmd.exe")を選択します。
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この操作によりvmd.exeファイルのヘッダ部にLARGEADDRESSAWARE のフラグが追加され、利用できるメモリサイズが4GBに増加します。

雪の重みで潰れたTSUTAYA花園インター店の屋根に積もった雪の重さを計算してみた

TSUTAYA花園インター店が雪の重みで潰れたことが話題になっています。


積雪によりどの程度の重さの雪が屋根に乗っていたのかを計算してみることにしました。


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まず Google map の建物の写真から、屋根の面積を見積もりました。

長方形型の建物であり、横に40m、縦に25m程度だとわかりますので、面積は40m×25m=1,000平方メートル(m^2)になります。

積もった雪の高さ(深さ)ははっきりとはわかりませんが、ざっくりと30cm(0.3m)だとします。

すると屋根の上に積もった雪の体積は 1,000m^2×0.3m=300立法メートル(m^3)となります。


あとは雪の密度(比重)が必要です。
積雪対策資料によると、雪の比重は0.2以上に設定する必要があり、安全性を考慮する場合は0.5として見積もるようです。

雪が大量に積もって圧縮されると密度は大きくなりますが、数十cm程度であればさほど圧縮はされていないと考えて、比重0.2(密度は0.2トン/m^3)だと仮定します。

結局、この建物の屋根の上の雪の重さは 体積300m^3×密度0.2トン/m^3 = 60トンとなりました。


乗用車プリウスの重量が1.8トン程度なので、60/1.8=33.3台のプリウスが屋根の上に載った状態になっていたわけです。

普段積雪がほとんどない地域では、屋根がこのような大雪の重さに耐えられるようには設計されていないため、かなりリスクがある状態になっているわけですね。

風力発電の採算を見積もってみた

原発事故以来、再生可能エネルギーの一種として風力発電所が注目されています。

実際に太陽光発電と並んで固定価格買い取り制度(Feed-in Tariff, FIT)による買取対象となっています。

今回は風力発電にどの程度の費用がかかり、どの程度の利益がでるものなのかを試算してみました。

2,000kWの大型風車での試算

洋上風力発電の調達価格に係る研究会とりまとめ報告書には、1基2,000kWの大型風車(例えば2013年3月に稼働開始したウィンド・パワーかみす第2洋上風力発電所ではローター直径80m)についての陸上風力の数字が載っています。

この風車について、資本費(風車を建てるのにかかる費用)は30万円/kW、運転維持費は0.6万円/kW/年、設備利用率(平均して定格出力の何%の電力を発電するか)は20%となっています。

よって、2,000kWの風車1基の建造費は 2,000kW×30万円/kW=6億円1年間の運転維持費は2,000kW×0.6万円/kW/年×1年=1,200万円となります。

1日の発電量は2,000kW×24h(時間)×20%=9,600kWhとなり、1年間では9,600kWh×365=3,504,000kWhとなります。

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2,000kW風車の年間収入

平成25年度の風力発電電力の買い取り価格は20kW以上の大型風車については23.1円/kWh(20年間)となっています。
平成25年度の再生可能エネルギーの固定買取価格が発表されました | 法規と条例 | DOWAエコジャーナル

よって発電電力のすべてを売却すれば、2,000kW風車1基1年間で3,504,000kWh×23.1kW/h=80,942,400円(約8,100万円)の収入を得られます。

2,000kW風車の年間費用

一方で支出としては、1年間の維持費1,200万円に加え、建造費6億円の減価償却費用(建造費を何年間かけて回収するか)がかかります。

法定耐用年数は17年(
http://www.office-kodaira.com/contents/data/pickup/20110713pickup/
)となっていますので、単純に建造費の1/17を17年間費用計上すれば、減価償却費用は毎年 6億円/17年=35,294,118円(約3,500万円)になります。

2,000kW風車の年間利益

収入から費用を差し引く事で利益を計算できます。

1~17年目は減価償却費用も考慮して、1年間の利益は 売上8,100万円 - 維持費1,200万円 - 減価償却3,500万円=3,400万円(投資額6億円の5.6%) となります。

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18年目以降は減価償却費用がなくなる(建造費は17年間で回収済み)ので、1年間の利益は 売上8,100万円 - 維持費1,200万円=6,900万円(投資額6億円の11.5%)と一気に倍増します。

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FITによる買取は20年間ですので、20年間で得られる累積利益を計算すると、約3,400万円×17年+約6,900万円×3年=約7.8億円 になります。

風車を建てるための初期投資6億円により、20年間で投資額の130%(7.8億円)の利益が出る計算です。
(注意:建造費6億円は減価償却費用として回収されていますので、最終的な採算としては利益にかかる税金を考えなければ6億円が20年後に6億円+7.8億円=13.8億円(元手の230%)に増える計算になります)

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考慮すべき様々なリスク

以上の試算のように、FITによる固定価格買取のおかげで風車を順調に運用できれば確実に大きなリターンを得ることができることがわかりました。

それでも考慮すべきリスクは多々あり、たとえば

  • 風況の見積りを誤り、全然風が吹かない場所に建ててしまい、設備利用率20%を達成できないリスク
  • 台風、落雷等の自然災害、あるいは工事・設計ミスによる故障多発等により風車を20年間運用できないリスク

等があり、完全にリスクフリーな商売というわけにはいかない点は注意が必要です。

デンマークで若いキリンがなぜ殺処分されたのか

デンマーク、コペンハーゲンの動物園がキリンを殺処分し、解体の様子を公開、さらに死骸をライオンに食べさせるというニュースがありました。

CNN.co.jp : 殺処分のキリン解体を一般公開、死骸はライオンの餌に デンマーク


この動物園の行動に対して抗議がヒートアップしています。

CNN.co.jp : キリン処分の動物園に殺人予告、是非巡る論議も白熱 - (1/3)


殺処分されたキリンは2歳とまだ若いマリウス(Marius)という名の個体で、なぜ殺処分されるのかは日本語のニュースには「キリンの同系交配防止のため」とさらっと説明されているだけだったので、興味をもって調べてみました。

動物園ウェブサイトの説明

なぜ若いキリンを殺処分する必要があったのかを、コペンハーゲン動物園(Copenhagen zoo)は自らのウェブサイトで説明しています。

Why does Copenhagen Zoo euthanize a giraffe?

箇条書きされている質問と回答の要旨は以下の通りです。
やはり動物の専門家である動物園だけあって、様々な面から検討を行い、最終手段として安楽死を決定したことがわかります。

なぜ健康なキリンを安楽死(euthanize)させるのか?

当動物園のキリンは国際繁殖プログラムに所属しており、生まれた個体は同系交配(inbreeding、遺伝的に近い個体同士の交配。競走馬シミュレーションのダビスタを思い出しますね)による健康障害のリスクを避るため、遺伝子の異なるキリンの群れに移動させることにしている。

ところが今回のキリン個体の遺伝子は、ヨーロッパ中の繁殖プログラムで飼育されているキリン遺伝子プール中でありふれた代表的なもので、同系交配にならないような相手が見つからなかったため、安楽死が決定された。

避妊はできないのか?

当動物園ではキリンを自然に交配させており、繁殖活動に及ばないようにキリンの行動を24時間束縛し続けることは極めて難しい。

(さらに他の記事 Why did Copenhagen zoo decide to kill Marius the giraffe? | World news | theguardian.com によると)
キリンに避妊手術をするのも難しい。なぜなら手術のためにキリンに麻酔をかけると、倒れる際に首の骨を折ってしまうリスクがあるためだ。

繁殖プログラムに参加していない動物園への移動はできないのか?

繁殖プログラムに参加する動物園は規則を守る必要がある。
ヨーロッパでの繁殖プログラムは欧州動物園水族館協会(European Association of Zoos and Aquaria (EAZA)、300以上のメンバーが加盟)に所属する動物園で行われている。

EAZAの規則として、動物を売却してはいけない、科学的知見に基づかなければならない、動物の福祉を保証する必要があることが決まっている。

(さらに他の記事 Why did Copenhagen zoo decide to kill Marius the giraffe? | World news | theguardian.com によると)
うかつに繁殖プログラムに所属していない団体にキリンを譲渡すると、より劣悪なサーカスあるいは個人に転売され、キリンを苛酷な環境に追い込んでしまう可能性がある。

殺処分せずに自然に戻すことはできないのか?

動物を自然に戻す(reintroduce)することは容易ではない。動物を自然に放す以上は生き残れる可能性があることを確認する必要がある。
それにキリンを放す地域コミュニティとの連携も必要となる。
そのため自然に戻すためには極めて注意深い下準備が必要となる。

sonyがVAIOから撤退かぁ

今日ソニーからPC事業(VAIO)から撤退するニュースリリースありました。
Sony Japan | ニュースリリース | PC事業の譲渡に関する意向確認書の締結について

VAIOのブランドは長野にあるPC事業拠点、従業員とともに日本産業パートナーズ株式会社に譲渡されます。

中国企業にIBMから譲渡されたLenovoブランドと同じように、VAIOブランドは当面はsonyの手を離れますが存続するようです。



振り返ってみると、2010年にデスクトップPCからノートPCに移行する際にVAIO Zを購入したのが初めてのVAIOでした。

通常電圧版のCore i5を搭載、Full-HDディスプレイ、13インチ液晶&重量1.3kgのポータブル性、といったスペックが魅力的だと感じたためVAIO Zを購入したと記憶しています。

そしてVAIO Zを3年間使い倒して、昨年Vaio Pro 11を購入しました。
VAIO Pro 11 を注文―VAIO Pro 13, Duo 13との比較結果― - 生物物理計算化学者の雛


Vaio Pro11はタッチパネルを外せば重量が800gを切るという極めて軽量であったことが魅力的でした。


また2~3年後には新しいVAIOを購入したいと思っていたので、今回のsonyのVAIO撤退は極めて残念に思うところです。

ですが、ノートPCの売上はタブレットやスマホといったより軽量なガジェットに喰われ続けている、特に途上国ではその傾向が強いようで、すっかり赤字を垂れ流すお荷物事業になっていたわけで、時代の流れには勝てなかったということでしょうね。

しばらくは切り離されたVAIOブランドがどう展開されていくのか注目していきます。

やっぱり授業中に個人の思想信条が絡む嘆願書を配るのはまずいよね

授業内における学生団体の要請活動への本学嘱託講師の対応について - HEADLINE NEWS - 立命館大学

授業中に朝鮮学校無償化に関する嘆願書を配布したことが問題視され、大学から上リンクのような釈明文が出されました。

いくつかのまとめブログが「単位を人質にして嘆願書の記入を強要」といった具合に煽っているようで、一部で炎上しているようです。
(「朝鮮学校無償化 授業中 嘆願書」あたりでググれば出てきます)



なぜ授業中に嘆願書を配ってはまずいのか

事実関係としては、教員は学生団体からの嘆願書の依頼に対して許可し、学生団体が嘆願書の説明、配布、回収を行ったようです。
そして教員は嘆願書への記入の有無等の情報は一切受け取っていないとしています。

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この釈明通りであれば授業の成績と嘆願書への態度は一切関係がないことになります。

ただし、この嘆願書に関する限り学生団体と教員の利害関係は一致していると見なしてよいでしょうから、「嘆願書を集めて集計したあとで結果を教員に伝えるのではないか?」という疑念は浮かびます。

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実際に教員と学生団体が知り合いである以上は、後で結果を伝達することは可能です。

この疑念が浮かんでしまうと、学生としては内心でどう思っていようと、単位取得のために嘆願書を書くという選択を迫られたと感じてしまうでしょう。

どうしても授業中に配りたいなら、かなりの配慮が必要

この嘆願書のような書類を授業で配りたいのであれば、かなりの配慮をする必要があります。

例えば、ある大学では授業改善のために授業のアンケートをとっていますが、そのアンケートの取扱は以下のようにかなり配慮されています。

  • アンケート配布前に、アンケート記入内容と単位認定とは一切関係がないことを説明する。
  • アンケート回答中は教員は教卓から離れてはいけない。(回答中のアンケートをのぞき見しないように)
  • 回答後のアンケート用紙に教員が触れてはいけない。
  • 学生代表者を選び、アンケート用紙の回収はすべて学生代表者に任せる。
  • 学生代表者は回収したアンケートを封筒に入れ、学生代表が事務に直接提出する。

ここでの一番のポイントは、アンケート提出先が教員と利害関係がない学生代表者であることです。
こうすればアンケートでどんなに授業内容を貶そうとも教員にはその情報は伝わらないため、単位取得のことを気にすることなく正直な感想を書くことができるわけです。

同様に、今回の嘆願書をどうしても配りたいのであれば、提出先としては、結果を教員に伝えることが不可能な完全に独立な第三者にする必要があったわけです。

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例えば「授業では嘆願書は配布するだけにし、記入は各自が家で行い、従来から嘆願書を募集している窓口(授業とは一切関係が無い)に郵送する。当然のことながら、嘆願書を書きたくない人は書かなければよいだけ。」といった方法が考えられます。