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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

『米国人の死因、第3位は「医療ミス」か』の元論文をチェック

原論文をチェック

CNNが医療ミスが第3位の死因であり、推計25万人が毎年死亡している可能性がある。という論文がアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究チームから発表されたとする記事を載せています

www.cnn.co.jp

こんなに多いには驚くべきことだ!という第一印象を持ち興味が沸きましたので、元論文を探してみました。

英語版の記事には元論文へのリンクあり

まずCNNの英語版の元記事を、CNNサイトで「Medical error」のキーワードで探したところ、すんなりと見つかりました。

edition.cnn.com

そして、この英語記事中では、元論文へのリンクがしっかりと張られていました。
日本語の記事でも、リンクくらい貼っておいてくれれば便利なのですが・・・

Medical error—the third leading cause of death in the US | The BMJ

この論文の本文は2ページと短いものでした。

医療行為による有害事象について、正しい集計がされていないことが問題だ

読んでみたところ、現在のアメリカのシステムでは、患者が死亡した際に医療に伴う有害事象(adverse event)を報告するのに適しておらず、医療ミスによる死亡を正しく集計できていないことを指摘するものでした。

一例として、移植手術後に異常を訴えた患者に対して、心膜穿刺による検査を行ったが異常は見つからず退院させたところ、内臓出血を起こし、再度病院に戻ったが最終的に亡くなったというケースが挙げられています。
このケースでは、心膜穿刺の際に肝臓を針が傷つけたために動脈瘤が生じたことが原因と分かりましたが、「心臓血管の異常による死亡」と報告されていました。

そして、過去に報告されているいくつかの調査の値から推測すると、CNN元記事のタイトルのような第3位の死因である可能性があるとするものでした。

この事態を改善するためには、まずは医療行為によって生じた有害事象を正しく報告するように、システムを改善しなくてはならないと著者らは主張しています。

正しい情報が集まれば、頻繁に生じる事象に対しては対応策を事前に検討し準備することが可能となり患者を救命できる可能性を高くすることができる上、エラーをより効率的に減らすことも実現できると主張しています。

具体的な医療ミスのイメージを掴むため、さらに報告書をたどってみた

具体的にどのようなケースを医療ミスと想定して調査がされているのかが気になったため、この論文で引用されている報告の1つについて、ざっと目を通してみました。

ADVERSE EVENTS IN HOSPITALS: NATIONAL INCIDENCE AMONG MEDICARE BENEFICIARIES

具体的な事象として以下のような様々な事象が挙げられていました。
・大量出血
・精神錯乱、心理状態の変化
・低血糖
・急性腎不全
・過剰な点滴投与
・誤嚥
・重度の低血圧
・呼吸器合併症
・尿路感染症
・血管カテーテル感染症

このような事象に対して、別の医師が治療記録を確認し、回避可能な事象であったか否かを判定することで、(避けることが可能だった)医療ミスの比率を見積もっています。

例えば、アレルギー反応に由来する事象については、避けられなかったと判定する医師が多い結果でした。

また、抗凝血剤(英語だと blood thinner、血液を薄めるもの という表現なんですね)による胃の大量出血については、相対的に健康な患者のケースでは避けられたはずと判定し、胃潰瘍がある患者については避けられなかったものだと判定しています。

事象によって確率は異なりますが、全体の平均として半分程度は避けられたはずという判定になっています。

このような判定により、医療ミスによる死者の比率を見積もっているということであれば、私としては納得できる結果に終わりました。

日本でこういった研究はされているのでしょうか?
日本での状況が気になるところです。

高額医薬品ニボルマブ(オプジーボ)の価格はどう決められたのか

経済問題

小野薬品工業が Medarex社(アメリカ)との共同研究により開発し、ブリストル・マイヤーズ社(アメリカ、Medarex社の親会社)と共同販売を行っている医薬品ニボルマブ(製品名 オプジーボ点滴静注20mg)は、悪性黒色腫(メラノーマ)、肺がんなどの各種がんへと使用されている、あるいは適用が見込まれている有望な新薬です。

従来型の化学構造で記述される抗がん剤とは異なり、ニボルマブはモノクローナル抗体医薬品という、新しいメカニズムで作用する医薬品です。

ある種のがん患者に対する臨床試験では、1年生存率が従来の抗がん剤の20%台がニボルマブでは40%台にまで向上するなど、かなり有望な効果が立証されています。

薬理作用や効用については、以下の資料を参考にしてください。

ニボルマブ―日本の研究が生んだ抗体医薬
オプジーボ(一般名:ニボルマブ(遺伝子組み換え))作用機序 | オプジーボ.jp


ニボルマブについて、その効果は大きいものの、費用が極めて大きく、将来的には国家財政への影響も無視できないレベルであると危惧する声が上がっています。

bylines.news.yahoo.co.jp
toyokeizai.net

ニボルマブの薬価は驚くほど高いのは事実でして、平成26年9月の新医薬品一覧表によると、点滴用の薬剤が 20 mg で 150,200 円、100 mg で 729,849 円 という価格になっています。

ニボルマブの用法・容量によれば、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に対して 3 mg/kg(体重) を2週間間隔で点滴」とありますので、体重 60 kg の患者1人が1ヶ月に使用するニボルマブの価格を計算すると、恐ろしいことに二百七十万円という高額になります

f:id:masa_cbl:20160507175144p:plain

日本では「高額療養費制度」のおかげで、患者の自己負担額は数万円~10万円強で済みますが、代わりに健康保険協会などが負担することになるため、マクロに見れば社会全体でこの費用を負担する必要があることには変わりありません。

この記事中の試算によれば、仮に想定される肺がん患者全て(15,000人)がニボルマブを使用すれば、6,300億円という金額になります。
日本中の大学・研究所の研究活動を支えている科研費の1年間の総額が 約2,600億円(平成23年度)なので、いかにこの金額が大きいかが実感できます。

そして、この種の高額な医薬品が次々に認可され使用されるようになれば、簡単に兆を超える国家財政規模の金額が必要になってしますわけです。

今回は、どのようにしてこのような高額な価格が決められたのかを調べてみました。

続きを読む

制御棒が動かなくても原子炉は止められるという話

エネルギー問題

今度は「熊本地震により川内原発で制御棒の出し入れが100%作動できず、原発を停止できなくなっている」という話が広まっているようです。

togetter.com

大地震や大津波の直撃により、福島第一原発のようにありとあらゆる設備が破壊されたような状況であればともかく、遠くで起きた地震で仮に一部機器に障害が出たという状況であれば、原子炉は制御可能であるように設計されています。

今回は、仮に制御棒の操作による原子炉停止操作が不可能になった場合に、対応策として用意されている原子炉を停止させる別の手段を説明します。


今回記事の多くは、伊方原発に関して高知県のウェブサイトで公開されている資料 「原子炉を止める対策」に関する回答要旨(PDFファイル) を参考に執筆しています。
興味のある方は、一度目を通しておくことを推奨します。

ざっくりとした説明


制御棒が動かない場合は、主に以下の2つのアプローチで原子炉を停止させることができます。

1.冷却水にホウ素を混ぜる

ホウ素は原子炉の膨大な熱を生成する主役である核分裂反応を抑制します。

そのため、冷却水にホウ素を高濃度で混ぜることで、制御棒の操作無しでも核分裂反応を停止させることができます。

福島第一原発事故の際も、原子炉にホウ素を含む水を注水することは頻繁に報道されていました。
これは、万が一壊れた原子炉内で核分裂反応が継続してた場合に、核分裂反応を抑制することを目的として行われた作業でした。

2.発電機への蒸気を止めることで、冷却水の温度を上昇させる

通常動作時において、原子炉で生成された熱エネルギーは、発電機への蒸気として原子炉から出ていきます。

そのため、発電機への蒸気の供給を止めてしまうと、原子炉内の温度が上昇します。

原子炉は動作温度より高い温度では核分裂反応が停止するように設計されていますので、この蒸気の供給を停止する操作により、制御棒の操作無しで核分裂反応を停止させることができます。

あとは原子炉が壊れる程の高温にはならないように冷却を続ければOKです。


詳細な説明

核分裂の原理

原子炉は核燃料である燃料棒、制御を行う制御棒、そして原子炉内を満たす水で構成されています。

運転中は制御棒は燃料棒の間から引き抜かれた状態になっており、この状態では核分裂反応が活発に生じて膨大な熱エネルギーを生み出し続けます。

運転停止時には、制御棒を燃料棒の間に差し込むことで、核分裂反応を停止させます。

f:id:masa_cbl:20160424204151p:plain


運転中にどのように核分裂が進行するのかを説明します。

f:id:masa_cbl:20160424204411p:plain

ここで2種類の中性子が出てきます。

1つ目は、核分裂を起こすウラン235から放出される高速中性子です。
その名前の通り、極めて早い速度(秒速1万キロメートル以上、光速の3%以上)で動く中性子です。

2つ目は、高速中性子が減速されて生じる熱中性子です。
熱エネルギーと同じ大きさという意味で「熱」という言葉がついており、高速中性子と比べると速度は6桁以上小さくなっています。

水などのいくつかの物質は、高速中性子を効率良く減速させて、熱中性子に変えることができます。
燃料棒の間が水で満たされている場合、燃料棒から放出された高速中性子は熱中性子になって、別の燃料棒に到達することが可能になります。

ウラン235は熱中性子を吸収して核分裂を行いますので、この状態では核分裂が進行することになります。

水が無くなると核分裂は止まる

もし水が無くなってしまった場合には、核分裂反応は停止します。

これは、減速材である水がいないため、高速中性子を熱中性子に変換することができないためです。

f:id:masa_cbl:20160424205840p:plain

そのため、原子炉が破損して冷却水が全て失われても、核分裂反応が暴走して核爆発が生じるというリスクは無視することができます。

制御棒の作用

制御棒は中性子を吸収しやすい素材でできています。

燃料棒の間に制御棒を挿入することで、核分裂を停止させることが可能になります。

f:id:masa_cbl:20160424205331p:plain

ホウ素を含む水は制御棒と同じ働きをする

ホウ素原子は、効率良く中性子を吸収することができます。

冷却水に高濃度でホウ素を混ぜることで、制御棒を挿入した場合と同じように、核分裂反応を停止させることができます。

f:id:masa_cbl:20160424210021p:plain

温度上昇は水を膨張(密度低下)させて、中性子の減速を不十分にする

原子炉内の温度が上昇すると、水が膨張して密度が低下します。

すると、中性子が他の燃料棒に到達するまでの間に十分な減速を受けることができなくなり、核分裂反応が起こらないようになります。

f:id:masa_cbl:20160424210512p:plain

また、川内原発のような加圧型原子炉(PWR)では重要でないですが、沸騰水型原子炉(BWR)では、水の沸騰より気泡が多くなると、やはり水の密度を低下させることになり、核分裂反応が抑制されることになります。(ボイド効果)

またここでは説明を省きますが、燃料棒の温度上昇もまた核分裂反応を抑制する方向に働きます(ドップラー効果と呼ばれます)

「原子炉を事前に停止すれば確かにリスクは下げられるという話」の感想戦

先日のブログ記事は、2日足らずで約3万という大量のアクセスを受けることができました。

masa-cbl.hatenadiary.jp


私のような原子炉の素人が少し調べて書いた程度の記事がここまで話題になってしまうとは、完全に想定していませんでした。
(熱量を水量に変換するところの計算ミスもやらかしていましたし・・・)

頂いたコメントやツイッターなどのSNSでの反応を見ると、私が把握していなかった送電線や原子炉の特性など、素人が書いた故に不足している部分も多々あったようで、申し訳ありません。

この点については、多くのコメントにあった「このブログの記述がそのまま信用できるかは分からないけれど・・・」という読み方をしていただけると、ブログを書く立場としては気が楽になります。

また、「明らかに間違ってるぞー!正しくはこうだ!」 というポイントに気付かれた専門の方は、是非ブログやSNSなどで正しい情報の発信をお願いいたします。


数多くの人が冷静に記述された判断材料を欲していることは、世間の良識を反映しており嬉しいことです

数多くのコメントの中から、私が最も共感したコメントは

・メリットとデメリットをきちんとまとめたこんな記事が読みたかった
・マスコミは結論ありきでなく、このように論点をまとめた記事を書いてほしい

といったものでした。

これぞ正しく私も欲しているものです。

それ故に、私個人が原発に対してどういう感情を持っているのかについてはあえて触れないようにし、とにかく科学的事実だけを書くようにしました。

このようなコメントの数はかなり多く、きちんとした科学的知見や論点を把握した上で議論をしたいと望む良識ある人々が数多くいることが分かり、とても嬉しく感じました。

是非マスコミの方には、原子炉、電力、地震といった様々な分野の専門家の意見を集約して、今回の「川内原発を止めるべきか否か」のような単純に答えが出せない課題への「冷静な判断材料」を提供していただけることを希望いたします。


なぜ地震大国日本に原発があるのか―天然資源に乏しいから

「地震などの自然災害が多発する日本に、なぜこんなに原発があるのか」という意見もありました。

1つの答えは、「日本はエネルギー資源に乏しいから」になります。石油欠乏が第二次大戦の要因の1つになったくらいですし。

この点は昔の記事でも議論したところです。

masa-cbl.hatenadiary.jp

石油に頼ればオイルショックにやられ、原発を使えば福島第一原発事故が起き・・・日本という天然資源を自給できない場所に住む以上は、ノーリスクということはあり得ず、どこかでリスクをとるトレードオフは避けられないのです。

太陽光発電などの再生可能エネルギーはまだまだ開発途上で、主力として使えるのは未来の話ですし。


やはり原発は「感情的に怖い」のか・・・

今回の記事をきっかけに川内原発停止に関する反応を見てみましたが、少なくない人々は「とにかく怖いから原発を止めてほしい」という意見を持っているようです。

私個人は、日常生活には極めて多数のリスクが存在することを科学的知識として持っていることもあり、必要以上に放射能のリスク「だけ」を恐れることがないように心がけています。

例えば、日本人の主食であるコメには健康リスク上無視できない濃度の無機ヒ素が含まれており、スウェーデンの食品庁が「コメの摂取制限」を勧告しています。

blog.goo.ne.jp

この事実をもって「コメなんて食べちゃいけない!」と極端に走る必要はないわけでして。

放射能に対して強い不安を感じる人は、身の回りにある様々な「リスク」について知識を得ることで、放射能もその1つとしてうまく受け入れられるようになるというのは1つの方策かな、と考えています。

環境リスク再考 化学物質のリスクを制御する新体系

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お母さんのための「食の安全」教室

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原子炉を事前に停止すれば確かにリスクは下げられるという話

エネルギー問題

熊本を中心とする九州地方での地震多発を受けて、川内原発を停止すべきとする意見が持ち上がっています。

www.asahi.com

この件を受けたツイッターやブックマークコメントを見ると、「原発を止めても核燃料が入っている以上はリスクは変わらない」という内容のコメントが散見されます。

実際のところ、もし原発に甚大なダメージを与える事象が予見されているのであれば、事前に原発を停止しておけばかなりリスクを下げることができます。

運転停止後の原子炉崩壊熱は原発停止後に急速に減少する

原子炉は核分裂による膨大な熱エネルギーにより蒸気を発生させ、発電機のタービンを回すことで発電を行っています。

この核分裂を制御棒の操作により停止させることで、原子炉の運転は停止されます。

しかしながら、ここが原子炉の難しい部分になるのですが、核分裂停止後の核燃料は、核分裂により蓄積された放射性同位体の崩壊に由来する崩壊熱が発生し続けます。

この原子炉崩壊熱の冷却に失敗すると、福島第一原発で生じたような炉心溶融といった事故に繋がるわけです。

この崩壊熱が時間の経過によってどのように減少するのかは以下のサイトに説明されています。

d.hatena.ne.jp

また愛知淑徳大学の親松教授が以下のような論説を公開しています。

福島第1原子力発電所の原子炉崩壊熱の見積もり(PDFファイル)

この親松教授の論説の崩壊熱の時間経過の図に加筆したものを下に示します。

f:id:masa_cbl:20160420124659p:plain

条件として、原子炉の電気出力は福島第一原発の2-4号炉の出力に近い 800 MWe を想定しています。

原子炉の熱効率は三分の一程度なので、熱出力はその3倍の 2,400 MW(メガワット)になります。これが原子炉運転中に核分裂により生成される熱エネルギーになります。

2,400 MW といってもピンときませんが、これを冷やすためにどれだけの水が必要かを計算してみると、20℃の水を100℃に沸騰させて冷却すると想定すると、1秒間に3.75 7.1トンの水が必要になります。
(実際に運転中の原子炉が使う冷却水は毎秒数十トンのオーダーです)

そして、制御棒の操作により核分裂を停止させると、その直後に発熱量は運転時の約6%相当の 154 MW 程度(水に換算すると毎秒 0.24 0.46トン = 毎秒 240 460 kg)に激減します。

さらに6時間後には1%程度の 25 MW (水に換算すると毎秒 40 74 kg)に、そして1日経つと0.4%程度の 10 MW (水に換算すると毎秒 15 30 kg)と崩壊熱は急速に減少します。

このように、崩壊熱の下がり方と冷却に必要な水の量を確認することで、原子炉を安定して冷却するために必要な水の量のイメージをつかむことができます。

(2016/4/20追記)コメントで指摘がありましたが、お恥ずかしいことに水量への換算計算にミスがありました。
ジュールとカロリーの換算で正しくは X / 4.2 の部分が X / 4/2 となっていたため、水量が二分の一程度に過小評価されていました。
図についても値を修正しておきました。

また、水は液体のまま100℃まで吸熱させて取り除くという想定をしており、水が蒸発時に生じる潜熱(約540 cal/g)を考慮していません。
水を全て蒸発させると想定して潜熱を考慮すると、必要な水量はおよそ八分の一になります。

前もって原子炉を停止しておけば、冷却機能を失っても対処に時間をかけることが可能

このように、崩壊熱は運転停止直後の6%から1日の間に0.4%まで十五分の一に大きく減少します。

言い換えると、仮に冷却水が供給不可能になるという不測の事態が生じる場合は、1日前に停止してあれば冷却すべき熱量は1ケタ小さく抑えることができ、燃料棒の過熱による原子炉の破損まで長い猶予時間を得ることができます。

この猶予があれば、原子炉への冷却水の供給を回復させる作業を行う、あるいは周辺住民の避難などに費やすことができる貴重な時間を得ることができます。

以上の技術的観点からは、川内原発直下に原子炉を破損させるほどの大地震が生じる蓋然性が高いと判断するのであれば、事前に原子炉の運転を停止することに十分に意義があります。

ただし、川内原発を止めることにもリスクはある

ただし、現実には川内原発を停止することにもリスクはあります。

下の九州電力データブック2015の128ページから、発電所および送電網の図を引用し、追記したものを示します。
http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0051/6814/data_book_2015_all_l.pdf

f:id:masa_cbl:20160419004907p:plain

この図から想定できるシナリオとして2つ考えられます。

1. 南北を繋ぐ送電線は熊本を経由しており、仮に川内原発を停止した後に熊本での再度の大地震が起こり送電線が切断されると、九州南部の電力量が不足して大規模停電が生じる可能性がある

2.川内原発以上の発電量を有する新大分火力発電所付近で大地震が発生した場合、新大分火力発電所が停止すると川内原発を止めていた場合は電力量が不足して、九州全体に大規模停電が生じる可能性がある

他にも、仮に川内原発を停止するのであれば、電力安定供給を目的とする休止火力発電所再開のために九州電力社員のマンパワーが使われることになり、熊本などへの支援に割ける人員にも影響がでることになると考えられます。

以上の原発の稼動、停止両者が内包するリスク、コストを考慮しつつ、総合的な視点から川内原発の停止をどうするのかを考慮する必要があると考えます。



追記しました

masa-cbl.hatenadiary.jp

C言語の全角文字コメント行がコンパイルエラーを起こすことがある

プログラミング

エラーを引き起こすコメント行

とあるC言語のプログラムを Windows 上の Visual Studio 2008 で編集・作成し、完成したソースコードを Linux マシンにコピーし gcc でコンパイルしてデータ処理を実行という流れで作業を行っていました。

その際に、ある全角文字を含むコメント行が存在するとエラーが生じるという現象に遭遇しました。

このエラーを再現するプログラムは以下のようなものです。

#include <stdio.h>

int main(void)
{  
    int n = 10;

    // n の値により分岐可能
    if(n > 5){
        printf("Large\n");
    }else{
        printf("Small\n");
    }
    return 0;
}

このソースコードは、Visual Studio上では何の問題もなくコンパイル、実行できます。

しかしながら、Linux の gcc によりコンパイルを行うと

main.c:10: error: expected identifier or ‘(’ before ‘else’
main.c:13: error: expected identifier or ‘(’ before ‘return’
main.c:14: error: expected identifier or ‘(’ before ‘}’ token

というエラーが出力されてしまい、コンパイルに失敗します。

そして、このプログラムの7行目の「// n の値により分岐可能」というコメント行を削除すると、Linux gcc でもこのエラーは解消され、コンパイル実行が可能となりました。

原因は2バイト目が \ になってしまう「Shift-JISのダメ文字」でした

この原因を探るためにバイナリエディタでソースコードを調べてみたところ、コメント行の最後に「\」(バックスラッシュ、または円マーク)に相当する文字コードが存在していました。

C言語では行末に \ が存在すると、その行の改行が無視されるということを思い出し、試しに最後の「」の文字を削除したところ、Linux の gcc でも問題なくコンパイルに成功しました。


私が使っている環境での Visual Studio 2008 は、作成したプログラムのソースコードを Shift-JIS で保存するようになっています。
そして、「能」のShift-JISコードを調べると「94 5C」であり、2文字目は確かに半角文字「\」の文字コード 5C になっていました。

Shift-JIS には「能」のように2バイト目が \ 記号と同じバイト列になっており、いろいろと問題を引き起こす文字があると以下のサイトに説明されています。

Shift_JISのダメ文字 - fudist

まさにこれが、今回の問題を引き起こしていました。

この問題の回避は、Shift-JIS以外の文字コードを使う、あるいはコメントの最後の文字として「ダメ文字」以外を使うことで可能です。


このコメント行末の \ については、コンパイラによって単に \ を無視するのか(Visual Studio の場合)、あるいは \ を適用して次の行もコメントとして扱ってしまうのか(Linux gcc の場合)で挙動が分かれているようです。

「なぜか消すと動かないコメント」ネタも再現可能

プログラミング世界で時々聞くネタとして // このコメントを消すと動かないので消しちゃダメ といった摩訶不思議なコメントが書かれているプログラムがあるというネタがあります。

このネタは以下のソースコードを Shift-JIS で保存して、Linux gcc でコンパイルすることで再現可能です。

#include <stdio.h>

int main(void)
{  
    int n = 10;

    // n の値により分岐可能
    //   この行のコメントを消すと動かないので、消しちゃダメ!
    if(n > 5){
        printf("Large\n");
    }else{
        printf("Small\n");
    }
    return 0;
}

このソースコードでは // n の値により分岐可能 の行末の \ により次の行がコメントアウトされますが、次の行に// この行のコメントを消すと動かないので、消しちゃダメ! というコメントがあるおかげでこの「Shift-JISのダメ文字」の問題を回避できています。

そして、このコメントを消してしまうと、次の if(n > 5) { の行がコメント扱いされてしまい、コンパイルが通らなくなります。


それにしても発見に手こずり、原因を見つけるのも厄介なエラーでした・・・。

「経済政策で人は死ぬか?」は政治家全員に読んでほしい本です

経済問題 読んだ本

前々から気になっていた本を読み終えました。

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策

過去の経済不況(最近のものだとサブプライムローンに端を発したリーマンショック、あるいはそれ以前だとソ連崩壊後のロシアや1990年代後半に生じたアジア通貨危機など)の際に、各国政府が行った政策を一種の臨床試験とみなし、主に政府支出を削減する「財政緊縮策」と、あえて不況時に政府支出を増やす「財政刺激策」を比較し、何が起きたのかを調査した成果が読みやすくまとめられています。

財政緊縮策を行った国では、多くの人々が仕事を失い、健康を損ない、死んだ。そして経済は回復しなかった。

財政緊縮策を採用した国々(ソ連崩壊後のロシア、アジア通貨危機後のタイ、インドネシア、そしてリーマンショック後のギリシャ)では、IMFからの融資を受ける際の条件として、とにかく国の財政を建て直すという名目で政府はあらゆる支出を削ることを迫られました。

そしてその結果は惨憺たるもので、財政緊縮による予算削減の結果、不況で職を失った人々に対するサポートが削られ、蚊が媒介する伝染病やエイズなどを予防する予算も削られ、結局のところは多くの人々が健康を損ない、そして万を超える単位の人々が死ぬ結果に終わりました。
つまり平均寿命の低下や、自殺者の増加という形で国民の「血」が流されたわけです。

この犠牲で経済が立ち直ったのであればまだ救われる部分があるのかもしれませんが、実際には職を失い生活保護のような福祉に頼りっぱなしになる、あるいは病気で働くことが不可能になった人々があふれることで、税収は減り福祉予算は増大し、国家財政も経済状況もボロボロの状況が長期間に渡り継続するという有様となりました。

財政刺激策を行った国では、失業者は仕事や家を保つことができ、死者は増えなかった。そして経済は早く回復した

一方で財政刺激策を採用した国(アジア通貨危機後のマレーシア、リーマンショック後のアイスランド)では、あえて失業者対策などの予算支出を増大させました。

当初は支出する予算が増える分の予算調達の困難さはあったものの、失業者対策を手厚く行うことで失業者の数を減らしたり、新たに病気にかかる人の数を増やすことなく保つことが可能でした。

その結果、不況による税収の落ち込みが最低限に押さえ込まれ、新たに病気になる人も少なく済み、景気も国家財政も緊縮財政策をとった国よりも早く回復することができたわけです。

政治家の先生方全員に読んでほしい本です

この本は、国の経済政策がいかに国民全体の幸福(健康状況、雇用状況)に影響するのかを理解する上で極めて良い内容となっていますので、是非政治家の先生方全員に読んでほしいと願います。

「日本は借金が多いから、福祉予算を削るべきだ」という主張は様々な政治家の人が口にするところですが、そのような緊縮政策が何をもたらすのか、少なくとも「副作用」としてどれだけ人々の健康、命を犠牲にするのかをキチンと理解して頂きたいところです。

その上で、せめて予算を削るにしても、失業者に対する支援措置、あるいは生活保護のような社会的弱者に対する支援を削るような愚行は避けてもらえれば・・・と願うところです。