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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

制御棒が動かなくても原子炉は止められるという話

エネルギー問題

今度は「熊本地震により川内原発で制御棒の出し入れが100%作動できず、原発を停止できなくなっている」という話が広まっているようです。

togetter.com

大地震や大津波の直撃により、福島第一原発のようにありとあらゆる設備が破壊されたような状況であればともかく、遠くで起きた地震で仮に一部機器に障害が出たという状況であれば、原子炉は制御可能であるように設計されています。

今回は、仮に制御棒の操作による原子炉停止操作が不可能になった場合に、対応策として用意されている原子炉を停止させる別の手段を説明します。


今回記事の多くは、伊方原発に関して高知県のウェブサイトで公開されている資料 「原子炉を止める対策」に関する回答要旨(PDFファイル) を参考に執筆しています。
興味のある方は、一度目を通しておくことを推奨します。

ざっくりとした説明


制御棒が動かない場合は、主に以下の2つのアプローチで原子炉を停止させることができます。

1.冷却水にホウ素を混ぜる

ホウ素は原子炉の膨大な熱を生成する主役である核分裂反応を抑制します。

そのため、冷却水にホウ素を高濃度で混ぜることで、制御棒の操作無しでも核分裂反応を停止させることができます。

福島第一原発事故の際も、原子炉にホウ素を含む水を注水することは頻繁に報道されていました。
これは、万が一壊れた原子炉内で核分裂反応が継続してた場合に、核分裂反応を抑制することを目的として行われた作業でした。

2.発電機への蒸気を止めることで、冷却水の温度を上昇させる

通常動作時において、原子炉で生成された熱エネルギーは、発電機への蒸気として原子炉から出ていきます。

そのため、発電機への蒸気の供給を止めてしまうと、原子炉内の温度が上昇します。

原子炉は動作温度より高い温度では核分裂反応が停止するように設計されていますので、この蒸気の供給を停止する操作により、制御棒の操作無しで核分裂反応を停止させることができます。

あとは原子炉が壊れる程の高温にはならないように冷却を続ければOKです。


詳細な説明

核分裂の原理

原子炉は核燃料である燃料棒、制御を行う制御棒、そして原子炉内を満たす水で構成されています。

運転中は制御棒は燃料棒の間から引き抜かれた状態になっており、この状態では核分裂反応が活発に生じて膨大な熱エネルギーを生み出し続けます。

運転停止時には、制御棒を燃料棒の間に差し込むことで、核分裂反応を停止させます。

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運転中にどのように核分裂が進行するのかを説明します。

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ここで2種類の中性子が出てきます。

1つ目は、核分裂を起こすウラン235から放出される高速中性子です。
その名前の通り、極めて早い速度(秒速1万キロメートル以上、光速の3%以上)で動く中性子です。

2つ目は、高速中性子が減速されて生じる熱中性子です。
熱エネルギーと同じ大きさという意味で「熱」という言葉がついており、高速中性子と比べると速度は6桁以上小さくなっています。

水などのいくつかの物質は、高速中性子を効率良く減速させて、熱中性子に変えることができます。
燃料棒の間が水で満たされている場合、燃料棒から放出された高速中性子は熱中性子になって、別の燃料棒に到達することが可能になります。

ウラン235は熱中性子を吸収して核分裂を行いますので、この状態では核分裂が進行することになります。

水が無くなると核分裂は止まる

もし水が無くなってしまった場合には、核分裂反応は停止します。

これは、減速材である水がいないため、高速中性子を熱中性子に変換することができないためです。

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そのため、原子炉が破損して冷却水が全て失われても、核分裂反応が暴走して核爆発が生じるというリスクは無視することができます。

制御棒の作用

制御棒は中性子を吸収しやすい素材でできています。

燃料棒の間に制御棒を挿入することで、核分裂を停止させることが可能になります。

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ホウ素を含む水は制御棒と同じ働きをする

ホウ素原子は、効率良く中性子を吸収することができます。

冷却水に高濃度でホウ素を混ぜることで、制御棒を挿入した場合と同じように、核分裂反応を停止させることができます。

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温度上昇は水を膨張(密度低下)させて、中性子の減速を不十分にする

原子炉内の温度が上昇すると、水が膨張して密度が低下します。

すると、中性子が他の燃料棒に到達するまでの間に十分な減速を受けることができなくなり、核分裂反応が起こらないようになります。

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また、川内原発のような加圧型原子炉(PWR)では重要でないですが、沸騰水型原子炉(BWR)では、水の沸騰より気泡が多くなると、やはり水の密度を低下させることになり、核分裂反応が抑制されることになります。(ボイド効果)

またここでは説明を省きますが、燃料棒の温度上昇もまた核分裂反応を抑制する方向に働きます(ドップラー効果と呼ばれます)