生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

『米国人の死因、第3位は「医療ミス」か』の元論文をチェック

CNNが医療ミスが第3位の死因であり、推計25万人が毎年死亡している可能性がある。という論文がアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究チームから発表されたとする記事を載せています

www.cnn.co.jp

こんなに多いには驚くべきことだ!という第一印象を持ち興味が沸きましたので、元論文を探してみました。

英語版の記事には元論文へのリンクあり

まずCNNの英語版の元記事を、CNNサイトで「Medical error」のキーワードで探したところ、すんなりと見つかりました。

edition.cnn.com

そして、この英語記事中では、元論文へのリンクがしっかりと張られていました。
日本語の記事でも、リンクくらい貼っておいてくれれば便利なのですが・・・

Medical error—the third leading cause of death in the US | The BMJ

この論文の本文は2ページと短いものでした。

医療行為による有害事象について、正しい集計がされていないことが問題だ

読んでみたところ、現在のアメリカのシステムでは、患者が死亡した際に医療に伴う有害事象(adverse event)を報告するのに適しておらず、医療ミスによる死亡を正しく集計できていないことを指摘するものでした。

一例として、移植手術後に異常を訴えた患者に対して、心膜穿刺による検査を行ったが異常は見つからず退院させたところ、内臓出血を起こし、再度病院に戻ったが最終的に亡くなったというケースが挙げられています。
このケースでは、心膜穿刺の際に肝臓を針が傷つけたために動脈瘤が生じたことが原因と分かりましたが、「心臓血管の異常による死亡」と報告されていました。

そして、過去に報告されているいくつかの調査の値から推測すると、CNN元記事のタイトルのような第3位の死因である可能性があるとするものでした。

この事態を改善するためには、まずは医療行為によって生じた有害事象を正しく報告するように、システムを改善しなくてはならないと著者らは主張しています。

正しい情報が集まれば、頻繁に生じる事象に対しては対応策を事前に検討し準備することが可能となり患者を救命できる可能性を高くすることができる上、エラーをより効率的に減らすことも実現できると主張しています。

具体的な医療ミスのイメージを掴むため、さらに報告書をたどってみた

具体的にどのようなケースを医療ミスと想定して調査がされているのかが気になったため、この論文で引用されている報告の1つについて、ざっと目を通してみました。

ADVERSE EVENTS IN HOSPITALS: NATIONAL INCIDENCE AMONG MEDICARE BENEFICIARIES

具体的な事象として以下のような様々な事象が挙げられていました。
・大量出血
・精神錯乱、心理状態の変化
・低血糖
・急性腎不全
・過剰な点滴投与
・誤嚥
・重度の低血圧
・呼吸器合併症
・尿路感染症
・血管カテーテル感染症

このような事象に対して、別の医師が治療記録を確認し、回避可能な事象であったか否かを判定することで、(避けることが可能だった)医療ミスの比率を見積もっています。

例えば、アレルギー反応に由来する事象については、避けられなかったと判定する医師が多い結果でした。

また、抗凝血剤(英語だと blood thinner、血液を薄めるもの という表現なんですね)による胃の大量出血については、相対的に健康な患者のケースでは避けられたはずと判定し、胃潰瘍がある患者については避けられなかったものだと判定しています。

事象によって確率は異なりますが、全体の平均として半分程度は避けられたはずという判定になっています。

このような判定により、医療ミスによる死者の比率を見積もっているということであれば、私としては納得できる結果に終わりました。

日本でこういった研究はされているのでしょうか?
日本での状況が気になるところです。