生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

検査をすると見つかる甲状腺がんって結構多い(超音波検査で0.5%の発見率)

昨日(2013/8/20)福島県の甲状腺がんのスクリーニング検査で約19万3千人に対して18人が甲状腺がん、25人が甲状腺がんの疑い、1人が良性だと診断されたニュースがありました。
福島の子どもの甲状腺がん、疑い含め44人に 16人増

疑い例を含めれば 44/193,000 = 0.023% の確率で甲状腺がんが発見された計算になります。
この確率は従来言われていた子供で発見される甲状腺がんは100万人に対して年1人程度とする確率 1/1,000,000 = 0.0001% の100倍のオーダーとなり、明らかに甲状腺がんが多く見つかっているように思われます。

しかし今回の福島の調査では自覚症状の有無にかかわらず全員を調査している点は注意が必要です。
甲状腺がんは進行がゆっくりで症状が出にくい場合が多く、さらに甲状腺の検査は通常の健康診断では行わないため、甲状腺がんを有していても発見されないケースがかなり多いため、これまで言われていた100万人に対して1人という数字はスクリーニング検査による甲状腺がんの発見率とは直接比べられない数字となります。

全員のスクリーニング検査で病気が見つかる確率は、症状が出た人についてだけ検査を行って見つかる確率とは異なる

一例として100人のうち10人がある病気に罹っているケースを考えます。

100%確実に判定できる検査を全員に対して行えば、この病気の発見率は10%となります。

次に甲状腺がんのように自覚症状が出にくい病気を想定し、自覚症状が現れた10人に対してだけ検査を行い2人だけが病気と診断されたとします。

この場合は病気があるが自覚症状が出ていない8人は見つけることができず、病気の発見率は2%に下がります。

このように自覚症状がでにくい甲状腺がんでは「全員に対して行うスクリーニング検査」と「症状が出た人にだけ行う検査」では病気の発見率が大きく変わりますので、単純に 1/1,000,000 と 44/193,000 を比較することはできません。

スクリーニング検査をすればかなり頻繁に見つかる甲状腺がん

人間ドックでは自覚症状がない人に対しても甲状腺の検査を行うことがあり、その結果を集計することでどの程度の割合で甲状腺がんが存在するのかが調査されています。
その結果がまとめられた日本語の論文が公開されています。
日本における甲状腺腫瘍の頻度と経過ー人間ドックからのデータ(PDFファイル)

この論文の表3によると発見率が高い超音波検査による甲状腺がん発見率は男性で0.25%、女性で0.72%となっており、男女平均で約0.5%の人に甲状腺がんがあることになります。

福島県の調査は原発事故当時18歳以下だった子供であるのに対し人間ドックは成人が対象であるため、比率の比較を直接行うことはできませんが参考になるデータです。

年を取るほどがん発症率は高くなりますので、福島の子供のデータの方が人間ドックでの発見率よりも1ケタ低いことは妥当に思われます。

正しい比較のためには18歳以下の子供の甲状腺がん発症率のデータが必要になります。
この目的で原発事故の影響がない青森県・長崎県で調査が行われています

原発事故の影響の有無の判断は青森・長崎での調査結果が出てから可能になります。