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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

「メガソーラー門前払い」って表現はどうなのよ

原発事故以来、固定価格買取制度による再生可能エネルギー(太陽光、風力等)開発が推進されています。

太陽光発電に関しては、低価格で広大な土地を確保可能な北海道においてソフトバンク等の営利企業がメガソーラー申請に殺到しており、北海道電力が売電申請の7割を拒否しているというニュースがありました。

メガソーラー暗雲 売電申請の7割、門前払いも


この記事タイトルで「門前払い」という表現を使っていることに強い違和感を感じます。

門前払いという表現からは「受け入れることは可能だが、受け入れを拒否している」という意味合いを感じます。
(実際に記事中に「商売敵の排除」という表現があるので、タイトルにそのような意味合いを込めているのかもしれませんが)

しかし少し調べてみると、短期間で建設されるメガソーラーによって発電される電力は物理的な制限によって受け入れが難しいものであることがわかります。

電線には電流による発熱に由来する許容電流限界がある → メガソーラーによって電流が増えるなら電線架け替えが必要に

電線は電気伝導率に優れた素材である銅でできていますが、それでも電気抵抗はゼロではなく、電流を流せば熱(ジュール熱)が発生します

発生する熱量はジュールの法則により計算することができます。
(発生する熱量 = (電流)^2 × 電気抵抗)

電線は絶縁体として用いる素材(ポリエチレン等)によって決まる許容温度があり(ポリエチレンならば90℃)、ジュール熱による発熱と自然放熱のバランスから許容電流(A)が決まります。
(詳細は http://www.ayame.sakura.ne.jp/~yosihiro/s_QandA/C_Densen/C_Densen.html


1,000-2,000kWクラスのメガソーラー発電所への接続は6,600Vの通常の送電線を使うことが多いようです。(送電線争奪ウォーズ― メガソーラーが風力、バイオマスを潰すのか

そして6,600Vの送電線として使われる電線は60-150sq (sq = スケア = mm^2、電線の断面積を表す単位、太いほど大容量の電流を流せる)ということなので(http://okwave.jp/qa/q7627861.htmlメガソーラーが建設されるような田舎は元々電力需要は小さいでしょうから60sqの比較的細い電線を使っていると想定できます。

そして60sqの電線の許容電流は 225-260A 程度http://electric-facilities.jp/denki4/okunai.html)です。

仮に2,000kWのメガソーラー発電所がフル稼働する場合、電線には2,000kW / 6,600V = 303A の電流が追加で流れることになりますので、これは60sqの電線許容電流を超えてしまいます。

この計算から、受け入れ可能なメガソーラー発電量には電線の物理的性質に由来する上限が存在し、電線の架け替えor新設が必要であることがわかります。

この送電線の改良費用については新規参入するメガソーラー建設業者が負担するのか、それとも電力会社側が負担するのかはどうなっているのでしょうか?
現在は送電は電力会社独占なので、電力会社側が負担することになっているのでしょうか。
(これが発送電分離の議論につながるわけですね)

参考:再生可能エネルギー・送電線奪い合い始まる 孫さん、自分で送電線敷きなさいよ!

再生可能エネルギーによる発電量は発電量が大きく変動するため、バックアップ用火力発電が必要

さらに送電線の問題を解決できたとしても、天候によって定格出力の0%〜100%まで大きく変動する太陽光や風力発電の電力は、電力の安定供給という面からは極めて扱いが厄介なものです。

電気は貯めておくことができず、電気供給のためには常に「供給電力=需要電力」を満たしている必要があります。
そのため、天候次第で発電量が0になり得る再生可能エネルギーによる電力を受け入れるのであれば、その発電量と同じだけの火力発電所をバックアップ用に用意しておく必要があります。

北海道電力に申し込みがあった太陽光発電の申し込みは87件、計156.8万キロワットということですが、これは北海道電力の全火力発電所の総出力421万キロワットの約35%、ベース電力としてフル稼働を継続する石炭燃料火力を除く火力発電所総出力200万キロワットの約75%という割合になってしまいます。(火力発電所出力はWikipediaより)

この火力発電所の出力を見れば、北海道電力が受け入れられる限度40万キロワットという数字はそんなものかな、と感じるところです。


また再生可能エネルギーには出力電力量が安定しないことに加え、電流の周波数(東日本50Hz、西日本60Hz)に関する不安定性の問題もあります。

詳細は以下のサイトを読んでほしいのですが、再生可能エネルギーは周波数的にも不安定であるため、再生可能エネルギー発電量に対し一定量の水力発電等の調整が利く発電所が必要となります。
http://electric-facilities.jp/denki2/keitou.html
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1382953388

「門前払い」という表現は医療崩壊を招いた「たらい回し」と同じにおいを感じる

上述した 1.送電線の送電容量の物理的限界 2.不安定な再生可能エネルギーにはバックアップ発電所が必要 という制限を考えると、電力会社が再生可能エネルギーの申請すべてを受け入れることは物理的に不可能であることがわかります。

物理的に不可能であるから断っていることについて「門前払い」という 実際は可能なことをめんどくさいから、利益にならないから受け入れない という意味合いの言葉で報道することは極めてアンフェアであると感じます。


このような報道姿勢は、空きベッド(手が空いている医師の存在を含む)がなく救急患者を受け入れることが不可能な病院に対して、救急患者を「たらい回し」して受け入れないのは何事だ!と痛烈に批判していた報道を思い出させます。
「たらい回し」から少し考える
「マスコミたらい回し」とは?(その118)大淀病院産婦死亡事例報道で奈良県ひいては関西の産科医療崩壊を加速させた毎日新聞の厚顔無恥 社説で「産科・小児科の医師不足」とはどの口がいう

この「たらい回し」報道は医療従事者を疲弊させるだけの無益な報道であったと記憶しています。


批判をするのであれば物理的に不可能なことを押し付けるのでなく、きちんと現実のデータを分析した上で意義のある批判をお願いしたいところです。