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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

高校生の論文が載った雑誌はまともに査読をしていない疑惑のある論文誌のようです

原論文をチェック

高校2年生の生徒がインドの査読付き国際数学雑誌に論文が掲載されたというニュースがありました。
http://www.kaijo-academy.jp/press/2014/02/post_722.html

高校生にして査読付き論文を発表できることは極めて異例ですので、この高校生は素晴らしい素質、能力があるものと思います。

特に数学という学問は、若い頃から素晴らしい成果を残す天才的な人がいる分野だと思いますし。
(少しわき道にそれますが、その点化学は経験がものを言う部分が大きい気がします。天才的な能力を持たない私のような凡人でも、なんとか成果をだしていけるのでは・・・と自分に言い聞かせながらがんばっています。)

掲載されたのはオープンアクセス誌

ちょいとどんな論文かみてやろうと思ってサイトにアクセスしたところ
Scientific Advances Publishers
自宅からでも論文のPDFを見れたため、誰でも読めるオープンアクセスなんだとわかりました。

普通の論文誌は年間契約等を結んで代金を支払っている購読者しか読むことができません。
それに対しオープンアクセスの雑誌は、誰でも自由に読むことができる代わりに、投稿者が掲載料を支払う必要があります

そのため、どんな内容の無い論文であっても査読の基準を非常に甘くして、とにかくたくさんの論文を掲載し、掲載料を稼ごうとするオープンアクセス雑誌が乱立しているとされています。

2009-06-13 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

オープンアクセス誌の玉石混淆ぶりが明るみに - バイオ系研究室PC管理担当のメモ


ちなみに今回の論文が載った雑誌Journal of Algebra, Number Theory: Advances and Applicationsでの掲載料は1ページあたり20ユーロ(
Scientific Advances Publishers の7. What are publication charges?
)となっており、今回の11ページの論文で掲載料220ユーロ(3万円強)を掲載料として支払っていると思われます。

当然ながら、まっとうに査読をしているきちんとしたオープンアクセス誌も数多く存在します。
投稿者が投稿時に掲載料を払う必要があるものの、誰でも読むことができることから、研究者以外の一般の方も論文を読むことができるオープンアクセスの方が好ましいと個人的には考えています。
ただし、このような商業主義で掲載料目当てのオープンアクセス誌が乱立しているという残念な現実があることも事実なのです。

今回の論文の雑誌は掲載料目当ての出版社から出ている模様

掲載料目当てと思われるオープンアクセス誌の出版社がまとめられたリストが公開されています。
LIST OF PUBLISHERS | Scholarly Open Access


今回高校生の論文が載った雑誌の出版社はScientific Advances Publishersですが、見事にこのリストにのっていました。

f:id:masa_cbl:20140308230026p:plain


というわけで、論文が載った雑誌は査読付きとなっていはいますが、きちんと専門家によるまっとうな査読がされたか?という点では極めて怪しいという結論になってしまいます。

実際にまともな雑誌であれば付与されている指標であるインパクトファクター追記:少し強く言いすぎました。刊行されたばかりの雑誌には付与されていませんし、インパクトファクターも1つの判断材料にすぎないです。)も、この雑誌については算出されていませんでした。

さらなる傍証として、この論文の受取日(Received date)は2013年12月31日、そして査読後の改訂、修正完了(Revised)が2014年1月8日となっており、査読による改訂がわずか10日足らずで完了している点が挙げられます。
f:id:masa_cbl:20140308232640p:plain

査読は「雑誌編集部が受け取った論文の内容を確認」、「編集部が査読者を選定」、「査読者が論文を読み、査読コメントを作成」、「編集部が査読コメントを受領し、論文投稿者に渡す」、「論文投稿者は査読コメントに対応して論文を改訂」、「改訂原稿を査読者が再チェック」、「査読コメントが十分に反映されていれば、掲載決定」というプロセスを経る必要があり、10日足らずで終わるとは思えません。

少なくとも私の分野(化学)であれば、どんなに早くても1ヶ月はかかります。
またインパクトファクターが付与されている数学分野のまともな雑誌(Journal of Algebra)の論文をいくつか見てみましたが、Recievedから出版まではやはり数ヶ月以上かかっていました。

さらなるブラッシュアップを経てまっとうな雑誌への投稿を期待

というわけで、高校生が査読付き雑誌に論文を発表したものの、その雑誌はおそらくまともな査読がされていない雑誌である可能性が高いことがわかりました。

この論文の内容にどれほどの価値があるのか、結果が正しいのかは私には判断ができません。

(追記)査読がまともに行われたかどうか疑義がある雑誌に載っていることから、この論文の内容は数学の専門家による査読チェック(新規性があるか、内容は正しそうか等)を本当に受けたのかどうかはかなり怪しいと判断せざるを得ないのです。
誰か数学の専門家の方が論文の内容自体について解説して下さるとありがたいのですが。

ですので是非ともこの高校生には、この論文の内容そのままだと2重投稿になってしまってダメですので内容のブラッシュアップを図った上で、まっとうなインパクトファクターの付与されている雑誌への投稿に挑戦してほしいものです。


推薦入試への箔付けとして掲載料目当てのオープンアクセス誌を利用できちゃう?

大学の推薦入試では全国大会出場、資格取得(英検など)といったわかりやすいアピールポイントがあるとアピールしやすいことと思います。

ある程度の英作文ができるのであれば、そのアピールポイントとして査読付き雑誌に論文掲載!なんてことがまともに査読をしないオープンアクセス誌を利用すればできちゃうことになりますね。

推薦入試を狙っている高校生は是非挑戦してみてください、なんちゃって。
(本気にしちゃダメですよ、場合によってはこういう雑誌に論文が載っていると将来逆に悪く評価されちゃうリスクもありますのでね)


(追記)はてぶ等でいただいたコメントに対応して本文も随時追記しています。

今回論文を発表した高校生を批判しているわけではないんですよ。
実際、高校生が英語で論文をまとめて発表すること自体、極めて素晴らしい結果であることは確かなんです。
ただし、結果的に査読がザルである疑惑がある出版社の雑誌に載せてしまった以上は、元記事にあるように「査読付き国際数学雑誌」に掲載という点をアピールすることには何かと問題があるぞー、と言いたいわけでして。

以前に化学分野ではこんなケースがありました。
茨城の女子高生が快挙! | Chem-Station (ケムステ)
こちらではJournal of Physical Chemistry Aというインパクトファクターのあるまっとうな雑誌に載っており、こちらのケースならば堂々と査読付き雑誌に掲載と胸をはって大丈夫なんです。

※当初の記事タイトルは「高校生の論文が載った雑誌はまともに査読をしていない疑惑のあるオープンアクセス誌のようです」でしたが、オープンアクセス イコール まともに査読をしない と単純に言えるわけではありませんので、「オープンアクセス誌」を「論文誌」に変更しました。