福島県が 「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~ (概要)」という資料 を公表したことを紹介する記事がありました。
この記事中での
「県内を細かくメッシュ状に区切って空間線量を測って、高いところに作付け制限を出せばいい」「土壌中の放射性セシウム濃度を測って、細かいエリアごとに管理を変えるのが科学じゃないか」などという“暴論”が、農業を知らない方々から声高に主張されて、そのたびに農業研究者は「そんなに単純じゃない」とぶつぶつ言っていた。
http://www.foocom.net/column/editor/8517/
という点については私も漠然とそう思っていました。
しかし、実際にはそうでなく「土壌中の放射性セシウム濃度と玄米中の放射性セシウム濃度の間には相関は見られない」等様々な興味深い結論が福島県の発表資料には含まれています。
興味のある方は是非リンク先の記事や発表資料を読んでください。
科学的根拠に基づく農作物への放射性物質低減の努力が非常によくわかります。
セシウム固定能力の高いバーミキュライトの層状構造
福島県の資料の9ページに粘土の一種であるバーミキュライトがゼオライトと並びセシウム固定能力が高いという記述があります。
なお、他にも多くの粘土鉱物がCsを「吸着」することが示されていますが、吸着されたセシウムは簡単に溶け出すことができるため、吸着だけではコメ等の作物にセシウムが吸収され移行してしまいます。
それに対し、バーミキュライトはセシウムを「固定」して閉じ込め、植物が吸収できない状態にすることができるようです。
バーミキュライトの一般的な組成は(Mg,Fe,Al)3(Al,Si)4O10(OH)2·4H2O であり、マグネシウム、鉄、アルミニウム、ケイ素、酸素原子で構成されており、様々な組成のものが存在します。
下に組成 Mg3Si4O10(OH)2·4H2O のバーミキュライトの構造を示します。
ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、酸素(O)で構成される層(Si,O-Mg,O-Si,Oの三層構造)がマグネシウムイオンMg2+と多数の水分子で構成される層を挟み込んで、層状に積み重なっています。
このような層状の構造は粘土一般にみられるものです。
セシウムイオンはマグネシウムイオンを追い出して固定される
セシウムイオンCs+を高濃度に含む溶液にバーミキュライトに浸すと、Mg2+と水分子が追い出されて、Cs+が取り込まれます。
Cs+を取り込んだバーミキュライトの構造が報告されています(PDB資料)
このCs+は上下の層に挟まれて強く安定化されるため、水に溶け出すことがなく「セシウムの固定」が実現されます。
この強い安定化は、Si,Oで構成される層の表面にあるくぼみが、Cs+のサイズとぴったり一致していることに由来します。
このようなイオンの大きさが結合の強さに重要であることは、以前に作成した動画を見ていただければ分かります。
参考資料
粘土の科学 粘土の分子構造の基本が書かれています
東邦大学山岸教授によるバーミキュライトへのセシウム吸着実験
山岸教授によるセシウム吸着後のバーミキュライト構造測定(PDF)
山岸教授によるバーミキュライトによるストロンチウムイオン除去の実験