先ほど今年のノーベル生理学・医学賞が発表されました。
http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2013/press.html
受賞者は「小胞輸送」という現象の解明をしたアメリカの3教授(James E. Rothman, Randy W. Schekman and Thomas C. Sudhof)です。
手元にあった分子生物学の定番の教科書「Molecular Biology of THE CELL 細胞の分子生物学 第5版」をチェックしてみたところ、1つの章(第13章)がそのものズバリ「細胞内における小胞の移動」となっており、教科書の章1つに相当する重要な発見だったことがわかります。

- 作者: Bruce Alberts,Julian Lewis,Martin Raff,Peter Walter,Keith Roberts,Alexander Johnson,中村桂子,中塚公子,宮下悦子,松原謙一,羽田裕子,青山聖子,滋賀陽子,滝田郁子
- 出版社/メーカー: ニュートンプレス
- 発売日: 2010/01
- メディア: 大型本
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そこでノーベル賞プレスリリースとこの教科書13章を読んで、「小胞輸送」という現象のエッセンスと受賞した3人の業績を3時間ほどでまとめてみました。
(専門の方から見て変なところがあったら是非つっこんでください)
小胞輸送とは
小胞輸送とは何かといいますと、細胞内のタンパク質等の物質を正しく輸送するために細胞内で起きている現象です。
例えば細胞内でのタンパク質合成は小胞体という部分で行われますが、小胞体で合成されたタンパク質はそれぞれ仕事をする場所に運ばれる必要があります。
この輸送の第一段階として、まず輸送されるタンパク質が集められ、小胞として放出されます。
この放出された小胞はタンパク質を必要とする組織まで運ばれ、その組織と小胞が融合することでタンパク質が供給されます。
このようにタンパク質等の物質を細胞内で輸送する現象が小胞輸送です。
Randy Schekman 博士は小胞輸送に重要な遺伝子を発見
小胞は供給元から供給先まで正しく輸送される必要がありますが、この輸送に関わる遺伝子をRandy Schekman博士は発見しました。
酵母の細胞である遺伝子を壊すと輸送が正しくおこなわれず、小胞の分布が変に偏ることを示して輸送に関わる遺伝子を特定したのです。
James Rothman 博士は小胞の運び先を特定するタンパク質を発見
小胞は正しい相手にだけ中身を渡す必要があり、相手の種類を認識する必要があります。
この認識は小胞表面および運び先の組織の表面に存在するタンパク質の組み合わせによって行われていることをJames Rothman博士は発見しました。
Thomas C. Sudhof 博士は小胞の中身が放出されるタイミング制御機構を発見
小胞輸送は化学物質の放出によるシナプス間での神経伝達でも利用されています。
神経を伝わる信号は正しいタイミングで伝えられないと非常に困ったことになりますが、このタイミング制御のメカニズムをThomas C. Sudhof 博士は発見しました。
下の図はカルシウムイオンによるタイミング制御が行われる様子の模式図です。
シナプス表面には神経伝達物質を含む小胞が集まっており、そこにカルシウムイオンが流入してくるとそれをトリガーとして小胞がシナプス表面の膜と融合して正しいタイミングで神経伝達物質が放出されます。
このようにカルシウムイオンを検知して小胞の融合を引き起こす小胞表面のタンパク質をThomas C. Sudhof 博士は発見しました。