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生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

ノーベル化学賞を共同受賞したWarshelとKarplusは複雑な人間関係?

分子シミュレーション 化学

昨日発表があった2013年のノーベル化学賞は、Martin Karplus, Michael Levitt, Arieh Warshel の3人がマルチスケールシミュレーションの業績で共同受賞しました。

3人は分子動力学計算プログラムCHARMMの開発等で共同で研究していた時期があるため友好的な間柄にあると推測できるのですが、どうも発表されている論文でのやりとりを見るとWarshelとKarplusの間柄は単純に友好なものとはいえないのではないか?と感じる部分があります。

論文の内容をめぐるKarplusとWarshelのやりとり

2007年にKarplusは実験家のグループと共にアデニル酸キナーゼという酵素タンパク質の酵素反応に関する論文をNatureに発表しています。
その結果を受けてWarshelは2009年に別の論文で反論を行い、それに対するKarplusのコメントとWarshelのさらなるコメントが2010年に論文誌に載りました。

ものすごくざっくりとまとめた内容は以下の通りです。

2007年 Karplusグループの論文 Nature 2007, 450, 838–844.
・実験とシミュレーション結果を総合すると、アデニル酸キナーゼの構造ゆらぎは酵素反応を促進するような成分を持っているようだ。

2009年 Warshelグループの論文 PNAS 2009, 106, 17359–17364. オープンアクセス
・アデニル酸キナーゼの粗視化モデルシミュレーションを実行したら、構造揺らぎは酵素反応を促進しないという結果になったぞ。

2010年 Karplusからのコメント PNAS 2010, 107, E71 オープンアクセス
・2009年のWarshelの論文のシミュレーションは我々の2007年の論文と見ているプロセスが違うし、シミュレーションで使ったアデニル酸キナーゼの実験値(k_cat)に問題があるし、粗視化モデルにも問題があるぞ。

2010年(上のコメントと同時掲載)コメントに対するWarshelの返答 PNAS 2010, 107, E71 オープンアクセス
・我々の2009年の論文のシミュレーションでは実験値(k_cat)は単なる一例として使っているだけでkcatの大小は論文の結論に影響を与えないし、粗視化モデルだってちゃんとチェックしたぞ。


科学者同士が解釈をめぐって議論を交わすこと自体は珍しくないのですが、最後のWarshelからKarplusへのコメントに対する返答がかなり辛辣な表現を使っているように感じます。

例えばこんな表現があります。

Readers who are preoccupied with the exact source of k_cat are welcome to embrace the idea that enzymes work by dynamics.
(私の訳)正しい k_cat に没頭している読者はどうぞご自由にダイナミクスが酵素活性に重要だという意見を持っていてください。

意見が異なっておりk_catについて指摘した Karplus に対して辛辣に「そんなことを言うならば、どうぞあなたはそう思っていてください」という突き放した雰囲気を感じてしまいます。


ノーベル賞が伝えられた直後のWarshelに対する電話でのインタビューが公開されていますが、ここでも

[インタビュアー] It must be very nice to be linked together with Martin Karplus, and particularly Michael Levitt, with whom you've worked so closely.
[Warshel] Yes, particularly with Mike, yes.

(私の訳)
[インタビュアー]一緒に仕事をされていたMartin Karplus, Michael Levittとの共同受賞とは素晴らしいですね。
[Warshel]そうですね、特に Mike (おそらくMichael Levittのこと)とは。

と、Karplusのことはスルーしているように感じられます。


12月上旬にノーベル賞授賞式があるわけですが、その場でKarplusとWarshelはどのように振る舞うのかが気になるところです。