生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

博士課程に進む人が(主に経済的な面で)覚悟しておくべきこと

データ分析業界の博士人材がアカデミア(学術界)から民間のコンサルタント等に転身しているひとが多いという記事がありました。

ここ最近の博士人材の動向を見ながら感じていること -銀座で働くデータサイエンティストのブログ-

大学の助教・講師・准教授・教授といったポジションは少子化の進行、大学の予算削減のあおりもあって今後は減る一方ですので、博士号を取得した人が民間に転身して活躍できる社会になりつつあるという点は極めて好ましいものだと考えます。

(上記事はビックデータといった流行の分野であるデータ分析関連だから就職がしやすくなっているだけなのかもしれませんが。
私の所属している計算機シミュレーション分野でも少しずつは博士人材の民間就職は増えつつあるらしいと聞きますが、実態はどうなのかな??)

博士号は足の裏のご飯粒だ。取らないと気になってしょうがないが、取っても喰えない

博士号持ちの人も徐々に民間就職しやすい方向に社会は変わりつつあるようですが、それでも飛びぬけて優秀な人を除く普通の人にとっては、修士卒で民間就職をするほうが安定した収入を長期にわたって得ることができる良質な職を得るチャンスは大きいと思います。

自分は博士後期課程に進学することを決めるまえにこの本を読んで、博士号取得後の就職の難しさを知ったことを覚えています。(この本はもう絶版ですが、古書なら手に入るようです)

博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

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確かこの本で出てきたものだと思いますが、「博士号は足の裏についたご飯粒だ。なぜなら取らないと気になってしょうがないが、取っても喰えないからだ。」というフレーズを覚えています。

小中高校と勉強ができた人にはアカデミックな業界への憧れを持っている人が多く、実際に修士卒で民間企業に就職した人で「博士号をとって研究する人生への未練がある」と言うひとがそこそこいます。
(この点はまさに「取らないと気になってしょうがない」を表しています)

じゃあ博士課程に行けばいいじゃないというと、やはり将来の就職の困難さを見据えると喰っていくのが厳しいのは目に見えているからそれは諦めたという返事が返ってきます。
(まさしく「(博士号を)取っても喰えない」わけです)

それでも博士課程に進学したい人が覚悟しておくべきこと

博士号取得者のアカデミック・民間を含めた就職状況は厳しいことは確かですが、それでも飛びぬけて優秀な人であれば(少なくとも自分の見える化学系の分野では)何らかの職を得ることは十分に可能です。

ちなみに私が持っている「飛びぬけて優秀」の具体的なイメージとしては

  • 修士課程修了までに「ほぼ自力で」論文を複数本執筆・発表して、博士進学とともに学振をゲットできる
    • ほとんどの修士の学生は教員・先輩の補助をたっぷりと受けて論文を出すことになりますが、それだけでは将来自力で論文を量産することができると証明することにはならない。(それでも修士の間に論文を出せればそれだけでも平均以上の実績になりますが)
  • 博士課程在学中・博士取得後にある程度以上の水準の雑誌に毎年4報以上の論文をコンスタントに発表し続ける、またはNature Scienceクラスのホームラン級の業績を上げる。

このくらいのことができる人ならどこかしらでアカデミックポジションを得ることは十分に可能だと思います。
(自分はこのレベルには全然達していないので、日々四苦八苦しておりますが)


それでは並みの能力の人が博士進学をしたいならばどういう「覚悟」が必要でしょうか?
私としては以下の点を覚悟する必要があると考えます。

  • 研究の世界で生きていくことを断念する可能性と、その後の食いつなぐ方針を覚悟しておく
    • 私の場合はプログラミング能力は人並み以上にあると自負していますので、いざとなったらプログラマーで食いつなげばいいと考えています。また人によっては「いざとなればラーメン屋でもやるさ」なんて言っている人がいたりまします。
    • ポスドクを何年もやって業績があがらなくなって「これからの人生どうしよう・・・」なんて鬱になってしまう人もいますので、いざという時にどう食いつなぐのかを事前に覚悟しておくことは精神衛生上も重要なポイントです。
  • 博士号取得後も10年間のオーダーで年雇い・ボーナス無しのポスドクを続ける覚悟をしておく
    • 博士ゲット直後に任期なしの助教等になれる人はごくわずかであり、ほとんどの人は1年・3年契約等のポスドクで食いつなぐことになります。ポスドクと一言に言っても待遇はさまざまです。
      • 社会保険に入れる・入れない
      • 時給制(たとえば時給2,000円、週30時間勤務で月給約240,000円)だったり年俸制(年俸3,000,000円で毎月250,000円が支給される)だったり
      • ボーナスはほとんどの場合無し(大学時代の友人に会って「ボーナスで車かったぜー」なんて聞いてへこんだり)
  • 収入が(民間と比べて相対的に)低い、不安定であることを考慮して、生活費を安くキープする、計画的に貯蓄をする
    • 雇い主のプロジェクトが終了してポスドクの任期が終了した場合、次のポスドク先を見つけるまで1年間無収入になったりすることはちょくちょくあります。この無収入期間を乗り換えるための低生活費・貯蓄あるいは実家からの援助がなければその時点でアカデミアを諦めなければならなくなります。
    • 不安定な職なのでポスドクの間は一軒家・マンション購入なんてのは「夢のまた夢」です。


これから博士課程に進学することを考えているひとは、(自分に飛びぬけた研究の才能があると自負しており、実際に実績も残している人は別として)このような(主に経済的な面で)覚悟をしておく必要があると考えます。