生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

Ultrabook にピッタリなUSB3.0 から (ギガビット有線LAN+USB3.0×3) に接続するアダプタを購入

先日購入した Vaio Pro11 には有線LAN接続が無く(ACアダプタに接続するワイヤレスルータはありますが)、大量のデータをやりとりする時には有線LANのギガビットイーサネットによる高速データ転送を行いたくなります。

そのためギガビット有線LANを接続可能なドッキングステーションの購入を検討したのですが(Windows 8のウルトラブックで使えるドッキングステーションを調べてみた)、なかなか これだ! というものが見つからずにいました。

そんな中、ちょうどよさそうなUSB接続のLANアダプタを見つけたので購入してしまいました。

Logitec 有線LANアダプタ USB3.0 USB HUB付 LAN-GTJU3H3

Logitec 有線LANアダプタ USB3.0 USB HUB付 LAN-GTJU3H3

このアダプタはUSB 3.0接続によりギガビットLAN接続が可能であり、さらに USB 3.0 のポートが3つついており、簡易的なドッキングステーションと言ってしまってもよいものです。


なお私の Vaio Pro11 では接続しただけでは有線LANを認識してくれず、Logitecのサイト(http://dl.logitec.co.jp/index.php?pn=LAN-GTJU3H3)からドライバをダウンロードしてインストールする必要がありました。


USBポートの数が少ないUltrabookのようなマシンには、USB1ポートを使って、USB3ポート&有線LANに接続できるこの製品はかなり便利でオススメできます。

博士課程に進む人が(主に経済的な面で)覚悟しておくべきこと

データ分析業界の博士人材がアカデミア(学術界)から民間のコンサルタント等に転身しているひとが多いという記事がありました。

ここ最近の博士人材の動向を見ながら感じていること -銀座で働くデータサイエンティストのブログ-

大学の助教・講師・准教授・教授といったポジションは少子化の進行、大学の予算削減のあおりもあって今後は減る一方ですので、博士号を取得した人が民間に転身して活躍できる社会になりつつあるという点は極めて好ましいものだと考えます。

(上記事はビックデータといった流行の分野であるデータ分析関連だから就職がしやすくなっているだけなのかもしれませんが。
私の所属している計算機シミュレーション分野でも少しずつは博士人材の民間就職は増えつつあるらしいと聞きますが、実態はどうなのかな??)

博士号は足の裏のご飯粒だ。取らないと気になってしょうがないが、取っても喰えない

博士号持ちの人も徐々に民間就職しやすい方向に社会は変わりつつあるようですが、それでも飛びぬけて優秀な人を除く普通の人にとっては、修士卒で民間就職をするほうが安定した収入を長期にわたって得ることができる良質な職を得るチャンスは大きいと思います。

自分は博士後期課程に進学することを決めるまえにこの本を読んで、博士号取得後の就職の難しさを知ったことを覚えています。(この本はもう絶版ですが、古書なら手に入るようです)

博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

博士号とる?とらない?徹底大検証!―あなたが選ぶバイオ研究人生

確かこの本で出てきたものだと思いますが、「博士号は足の裏についたご飯粒だ。なぜなら取らないと気になってしょうがないが、取っても喰えないからだ。」というフレーズを覚えています。

小中高校と勉強ができた人にはアカデミックな業界への憧れを持っている人が多く、実際に修士卒で民間企業に就職した人で「博士号をとって研究する人生への未練がある」と言うひとがそこそこいます。
(この点はまさに「取らないと気になってしょうがない」を表しています)

じゃあ博士課程に行けばいいじゃないというと、やはり将来の就職の困難さを見据えると喰っていくのが厳しいのは目に見えているからそれは諦めたという返事が返ってきます。
(まさしく「(博士号を)取っても喰えない」わけです)

それでも博士課程に進学したい人が覚悟しておくべきこと

博士号取得者のアカデミック・民間を含めた就職状況は厳しいことは確かですが、それでも飛びぬけて優秀な人であれば(少なくとも自分の見える化学系の分野では)何らかの職を得ることは十分に可能です。

ちなみに私が持っている「飛びぬけて優秀」の具体的なイメージとしては

  • 修士課程修了までに「ほぼ自力で」論文を複数本執筆・発表して、博士進学とともに学振をゲットできる
    • ほとんどの修士の学生は教員・先輩の補助をたっぷりと受けて論文を出すことになりますが、それだけでは将来自力で論文を量産することができると証明することにはならない。(それでも修士の間に論文を出せればそれだけでも平均以上の実績になりますが)
  • 博士課程在学中・博士取得後にある程度以上の水準の雑誌に毎年4報以上の論文をコンスタントに発表し続ける、またはNature Scienceクラスのホームラン級の業績を上げる。

このくらいのことができる人ならどこかしらでアカデミックポジションを得ることは十分に可能だと思います。
(自分はこのレベルには全然達していないので、日々四苦八苦しておりますが)


それでは並みの能力の人が博士進学をしたいならばどういう「覚悟」が必要でしょうか?
私としては以下の点を覚悟する必要があると考えます。

  • 研究の世界で生きていくことを断念する可能性と、その後の食いつなぐ方針を覚悟しておく
    • 私の場合はプログラミング能力は人並み以上にあると自負していますので、いざとなったらプログラマーで食いつなげばいいと考えています。また人によっては「いざとなればラーメン屋でもやるさ」なんて言っている人がいたりまします。
    • ポスドクを何年もやって業績があがらなくなって「これからの人生どうしよう・・・」なんて鬱になってしまう人もいますので、いざという時にどう食いつなぐのかを事前に覚悟しておくことは精神衛生上も重要なポイントです。
  • 博士号取得後も10年間のオーダーで年雇い・ボーナス無しのポスドクを続ける覚悟をしておく
    • 博士ゲット直後に任期なしの助教等になれる人はごくわずかであり、ほとんどの人は1年・3年契約等のポスドクで食いつなぐことになります。ポスドクと一言に言っても待遇はさまざまです。
      • 社会保険に入れる・入れない
      • 時給制(たとえば時給2,000円、週30時間勤務で月給約240,000円)だったり年俸制(年俸3,000,000円で毎月250,000円が支給される)だったり
      • ボーナスはほとんどの場合無し(大学時代の友人に会って「ボーナスで車かったぜー」なんて聞いてへこんだり)
  • 収入が(民間と比べて相対的に)低い、不安定であることを考慮して、生活費を安くキープする、計画的に貯蓄をする
    • 雇い主のプロジェクトが終了してポスドクの任期が終了した場合、次のポスドク先を見つけるまで1年間無収入になったりすることはちょくちょくあります。この無収入期間を乗り換えるための低生活費・貯蓄あるいは実家からの援助がなければその時点でアカデミアを諦めなければならなくなります。
    • 不安定な職なのでポスドクの間は一軒家・マンション購入なんてのは「夢のまた夢」です。


これから博士課程に進学することを考えているひとは、(自分に飛びぬけた研究の才能があると自負しており、実際に実績も残している人は別として)このような(主に経済的な面で)覚悟をしておく必要があると考えます。

海外出張の時はスーツケースに目印をつけて写真を撮っておこう

この記事を読んで以前出張時に空港でスーツケースが出てこなかったトラブルに遭ったときのことを思い出しました。

英語が、だめだ・・ - 女性教授奮闘記 from Toyama -

日本を出発してマレーシア・クアラルンプールの空港に到着したのですが、自分のスーツケースがいつまで経っても出てこなかったのです。
こういう時はバゲージクレーム(baggage claim)に行くのですが、行った先にいた40代くらいのおばさまの係員さんに荷物がでてこないと伝えたところ、すごい早口で「カラカラカラカラカラカラ」と言い出して???と思って何度も聞き直したところ
「あなたのバゲージ(荷物)の色は何色なんだ?」
ということを聞いていたんだとやっと理解できました。

スーツケースには目印をつけて、さらに写真をとっておこう(できればサイズも把握しておこう)

空港職員はスーツケースを探すために、色、形、サイズを聞いてきます。
この時のスーツケースは借り物で、色もサイズもうろ覚えで説明するのに苦労しました。
(最終的にはスーツケースが他の空港に運ばれてしまっていたことがわかり、翌日ホテルまで届けてもらえて助かりましたが)

この経験以来、スーツケースには自分のものだと分かるように目印をつけ、さらに係員さんに英語で説明をするときの助けになるようにスーツケースの写真を事前にスマホで撮っておくようにしています。

目印としては手軽にできるのでシールを貼っておくという人が多いようですね。
自分はアルファベットのシールを適当な英単語になるように貼ってあります。(これだと係員にどんなシールが貼ってあるか口頭で説明できていい)

ヘルマラベル #4158(防水シール)【アルファベット】 304158

ヘルマラベル #4158(防水シール)【アルファベット】 304158

さらにシール以外にベルト(バンド)を巻くことも工夫としてやっています。
スーツケースは同じようなサイズ・色のものが多いため遠目には区別がつきにくいですが、ベルトの色で自分のものだとわかりやすくなりますので。

スーツケースベルト トリコロール SL-60

スーツケースベルト トリコロール SL-60

Ivy Bridge世代のXeon E5-2600 V2 の最上位CPUを比較

デュアルCPU構成の標準的なサーバ・ワークステーションで使われるXeon E5シリーズの新世代CPU Xeon E5-2600 v2 シリーズが発売されました。

怒涛の12コア24スレッド“Ivy Bridge-EP”Xeon E5-2600 v2降臨 (CPUリスト表あり)

CPU性能の高いマシンを調達するぞーという場合、価格が最も高いCPUを選ぶというのも一つの手ですが、用途によってはCPUコア数、動作クロックのバランスを考えたほうがよい場合があります。

使用する用途としては

  • シングルコア性能が高いマシンを組みたい
  • 多数の独立なジョブを大量に実行したい
  • MPIで並列計算を早くしたい

等いろいろなシチュエーションがあり得ます。
(実際はメモリアクセス・HDDアクセス等がボトルネック(律速)となり得ますが、今回記事ではCPU負荷がボトルネックとなる場合を考えます)

3つの選択肢 Xeon E5-2697v2, E5-2690v2, E5-2667v2

用途に応じて最も処理が早くなり得るCPUの候補は3つに絞られます。

  1. Xeon E5-2667V2 8 core 3.3 GHz (turbo max 4.0 GHz) $2057
  2. Xeon E5-2690V2 10 core 3.0 GHz (turbo max 3.6 GHz) $2057
  3. Xeon E5-2697V2 12 core 2.7 GHz (turbo max 3.5 GHz) $2614
    • すべてTDP(消費電力・発熱の目安)は130Wで同じ

グラフにまとめると以下のようになります。

シングルコア実行を早く行いたいならば、ターボブースト最大周波数が一番高いXeon E5-2667V2 が最適です。

多数の独立なジョブを大量に実行したい場合は、実質的に並列化効率100%とみなすことができ、コア数×定格周波数が最大となるXeon E5-2697V2 が最適です。

MPIを使う場合は並列化効率に依存して最適なCPUは変わってきます。
並列化効率がほぼ100%であるならばXeon E5-2697 v2が最速となりますし、並列化効率が悪いプログラムならばコア数が少ないが周波数が高いXeon E5-2667 v2が最速となります。
あるいはほどほどの並列化効率のプログラムならばXeon E5-2690 v2が最速となるケースもあるのかもしれません。

いずれにせよ、どのCPUも2千ドル(約20万円)超えというお値段で、CPUを2個購入するだけで40万超え、サーバ1台でメモリ・HDDを最低限に抑えても最低50万円といったところですね。
個人で買うようなものではないことは確かです。

消費税増税は日本の景気を永続的に悪化させるからやめたほうがいいんじゃないかなぁ

私にとってものすごく腑に落ちる消費税増税のマイナス面の解説記事を見つけました。

簡単に言えば(下に要旨もありますが)消費税増税の影響は、住宅や自動車などの特に高額の耐久消費財に選択的、集中的に現れると考えられます。※所得が伸びない中、増税で可処分所得が減ると、生活必需消費が優先され、住宅や自動車などの高額耐久消費財に消費のしわ寄せが集中的に生じ、これらの消費額(投資額)が大きく減少します。これらを含む耐久財分野は、日本経済を支える高付加価値分野であり、成長のエンジンです。成長への影響が心配されます。

Turedure Keizai: 財政出動論24 消費税増税の影響(97年の例から)

是非この記事を読んでいただきたいのですが、消費税増税後に起きた需要減少として

  • 1997年4月の 3%→5% の消費税増税の後、25兆円前後だった民間住宅投資が4兆円程減少し、その減少は10年以上にわたって継続している
  • 四輪自動車全メーカ国内販売台数が1997年の消費税増税前は600万台半ばだったのが、消費税増税後は73万台程度減少し、この減少も10年以上にわたって継続している

が挙げられています。

住宅投資・自動車産業ともに日本の産業で大きな比重を占めており、多数の中小企業を含む国内企業の雇用にも大きな比重を占めていますので、これら需要減少は日本景気を低迷させる大きな要因だったと考えられるわけです。

消費税増税は大きな買い物(住宅・自動車・耐久消費財)に使える資金を大きく削ぐ

消費税増税によって消費者が住宅や自動車といった大きな買い物に使える資金が大きく削がれることは簡単な計算でわかります。

例として、所得税・社会保険等を控除後の手取り収入が年480万円(月40万円)、消費税を除く生活費が360万円(月30万円)という家庭を考えます。
すると消費税が5%、10%の場合に貯蓄できる金額は年102万円、84万円となり、消費税が5%から10%に増えることで年間貯蓄は約2割も減ってしまうわけです。

そして貯蓄を5年間継続すると消費税5%、10%での貯蓄総額は510万円、420万円となります。

消費税による差額は90万円となり、安い新車1台分の差がでてしまいます。

あるいはマンションを購入するならば、マンション価格の2割を頭金として用意するという目安に従うならば、頭金が510万円、420万円と違っていれば購入できる部屋の価格は2550万円、2,100万円となり、購入できる部屋のグレードが1段階変わってしまうわけです。

1997年の消費税増税前後の統計データを見ると、消費税を上げることによる住宅・自動車といった大きな買い物のための貯蓄を削る効果は永続的に効いてきそうですので、2014年3月に予定されている消費税増税はさらに日本の景気を永続的に悪化させてしまう大きなリスクになってしまうのではないでしょうか。
(駆け込み需要とその反動のような一時的な景気悪化には対応できても、ここで述べた効果にはそう簡単には対応できないと思います)

検査をすると見つかる甲状腺がんって結構多い(超音波検査で0.5%の発見率)

昨日(2013/8/20)福島県の甲状腺がんのスクリーニング検査で約19万3千人に対して18人が甲状腺がん、25人が甲状腺がんの疑い、1人が良性だと診断されたニュースがありました。
福島の子どもの甲状腺がん、疑い含め44人に 16人増

疑い例を含めれば 44/193,000 = 0.023% の確率で甲状腺がんが発見された計算になります。
この確率は従来言われていた子供で発見される甲状腺がんは100万人に対して年1人程度とする確率 1/1,000,000 = 0.0001% の100倍のオーダーとなり、明らかに甲状腺がんが多く見つかっているように思われます。

しかし今回の福島の調査では自覚症状の有無にかかわらず全員を調査している点は注意が必要です。
甲状腺がんは進行がゆっくりで症状が出にくい場合が多く、さらに甲状腺の検査は通常の健康診断では行わないため、甲状腺がんを有していても発見されないケースがかなり多いため、これまで言われていた100万人に対して1人という数字はスクリーニング検査による甲状腺がんの発見率とは直接比べられない数字となります。

全員のスクリーニング検査で病気が見つかる確率は、症状が出た人についてだけ検査を行って見つかる確率とは異なる

一例として100人のうち10人がある病気に罹っているケースを考えます。

100%確実に判定できる検査を全員に対して行えば、この病気の発見率は10%となります。

次に甲状腺がんのように自覚症状が出にくい病気を想定し、自覚症状が現れた10人に対してだけ検査を行い2人だけが病気と診断されたとします。

この場合は病気があるが自覚症状が出ていない8人は見つけることができず、病気の発見率は2%に下がります。

このように自覚症状がでにくい甲状腺がんでは「全員に対して行うスクリーニング検査」と「症状が出た人にだけ行う検査」では病気の発見率が大きく変わりますので、単純に 1/1,000,000 と 44/193,000 を比較することはできません。

スクリーニング検査をすればかなり頻繁に見つかる甲状腺がん

人間ドックでは自覚症状がない人に対しても甲状腺の検査を行うことがあり、その結果を集計することでどの程度の割合で甲状腺がんが存在するのかが調査されています。
その結果がまとめられた日本語の論文が公開されています。
日本における甲状腺腫瘍の頻度と経過ー人間ドックからのデータ(PDFファイル)

この論文の表3によると発見率が高い超音波検査による甲状腺がん発見率は男性で0.25%、女性で0.72%となっており、男女平均で約0.5%の人に甲状腺がんがあることになります。

福島県の調査は原発事故当時18歳以下だった子供であるのに対し人間ドックは成人が対象であるため、比率の比較を直接行うことはできませんが参考になるデータです。

年を取るほどがん発症率は高くなりますので、福島の子供のデータの方が人間ドックでの発見率よりも1ケタ低いことは妥当に思われます。

正しい比較のためには18歳以下の子供の甲状腺がん発症率のデータが必要になります。
この目的で原発事故の影響がない青森県・長崎県で調査が行われています

原発事故の影響の有無の判断は青森・長崎での調査結果が出てから可能になります。

今後の日本国内での資金の流れを予想してみる

先日、日本の借金額が1,000兆円を突破したことがニュースになりました。
初の1000兆円突破=「国の借金」膨張止まらず―1人当たり792万円・6月末

私はこの国の借金増加自体はさほど大きな問題ではないと認識しています。
参考:政府の負債という「幽霊」を恐れる愚

これを機に、先日のブログ記事
masa-cbl.hatenadiary.jp
で集計した金融負債額データをもとに今後どうなるのか考察してみました。

前回記事のおさらい:家計の貯金 = 企業の借金+政府の借金+海外投資

前回記事の図2つを簡単におさらいします。


この図では各年度での金融資産・負債差額、つまり貯金から借金を引いた差額が示されています。

家計はこの差額がプラスであれば貯金(銀行預金、保有国債等)が借金(住宅ローン等)よりも多いことを示します。

その家計の貯金分を借り入れているのが非金融法人企業(銀行・保険業以外の民間企業)、一般政府海外(マイナスは海外への投資額を表す)の3主体です。

誰かの負債=誰かの金融資産 なので 家計の貯金総額=企業の借金+政府の借金+海外投資 のバランスが成り立っています。


この図は非金融法人企業一般政府海外の借金を示しています。

ここ十数年間は非金融法人企業の借金が減り、一般政府の借金と海外投資が増えていることがわかります。

1995年〜2011年の金融資産・負債差額を線形フィットして平均的な金融資産変動を見積もる

時系列データから未来を予測する最も単純な方法は、過去のデータを直線でフィットして傾き(=毎年の増加・減少額)を見積もることです。

企業の借金額がピークを打った1995年から最も新しい2011年までのデータから傾きを見積もった結果を示します。


企業の借金は毎年20兆円ずつ減少


政府の借金は毎年30兆円ずつ増加、海外への投資は毎年10兆円ずつ増加

図は示しませんが、家計の金融資産は毎年20兆円ずつ増加、全主体を合計した金融資産(負債)総額は毎年20兆円ずつ増加しています。

1995年を境に変化した金融資産フロー

1995年以前の推移をみると、家計の金融資産が増えた分だけ企業の借金が増えるというシンプルな流れになっています。

それが1995年以降になると、企業が資金の出し手側に回り、家計と企業が年20兆円ずつ金融資産を増やすor借金を減らし、30兆円を政府が、10兆円を海外が吸収する流れになっています。

私の意見としては緊縮財政によって政府の借金を減らすことには反対なのですが、その根拠がこの資金の流れです。

1995年以降に家計と企業が貯蓄を増やす(借金を返済する)ことができてきたのは政府がその分借金を増やしてきていたためだとこの図から理解できるためです。

ここでもし国が無理やり借金返済に回ったとすると、家計や企業が金融資産を増やすことは不可能になり、その分家計or企業の資産が減る、つまり家計収入や企業利益が減り日本経済全体が縮むしかなくなると推測できます。

今後はどうなる? 企業が資金のメイン供給源になり、家計と政府が資金を借り手になる?

それでは今後はこの資金の流れはどうなっていくのでしょうか?

現状がこのまま続くのであれば国の借金が1,000兆円突破したとする冒頭のニュースのように国の借金がどんどん増えることになりますが、その分を家計と企業の金融資産が増えることでカバーできるため破たんはおこらず、この流れはしばらく続くことは十分に考えられます。

ただし家計の貯蓄増加は高齢化の進展により止まることが推測されますので(給料をもらう現役世代が減り、貯金を取り崩して生活する高齢者が増えるため)、いずれ家計は貯蓄を減らす、つまり資金の借り手側に回ると推測します。

企業は日本国内の需要は少子化・人口減のために減り続けることを考えると借金をして投資する必要性はないため、引き続き借金返済を継続し、さらに海外への投資を継続すると推測します。
そしていずれは借金を完済し、貯蓄超過の状態にまで突入するかもしれません。
(企業の借金は 1995年 710兆円 → 2011年 350兆円と16年間で半減しています。このペースが続くと2020年代後半には借金完済まで到達する計算になります)

政府の借金は現状通り増え続けるのではないでしょうか(この政府の部分については根拠無しです)

以上をまとめると下図の流れになります。

なお、アベノミクスが大成功すれば企業は1995年以前のように再び借金を増やして投資を行うようになり、昔のような資金の流れが復活する日が来るのかもしれません。
実際に2005年、2006年の2年間に限ってみれば不動産流動化等の企業投資が活発に行われた好景気下にあり、企業の借金が増え、政府の借金が減る傾向が出ていますので、これが再現されるのかもしれません。

今後の日本経済はどうなるのか、こんな具合に予想しながら眺めていきたいと思います。