生物物理計算化学者の雛

主に科学に関する諸々を書き留めています。

CentOSでGanglia可視化のためのhttpdサービスが起動不能になったことに対応

多数マシンの稼働状況を監視するプログラムGangliaでhttpdサービスによりブラウザ上での可視化を提供していたマシン(CentOS 5.5)にトラブルがあり再起動をしました。

f:id:masa_cbl:20131105145035p:plain
Gangliaによる監視



ところが再起動してもGangliaの表示がされないため調べてみたところ、httpdサービスの起動に失敗していました。
手動で /etc/init.d/httpd restart を行っても起動に失敗したためエラーログを調べたところ、/var/log/httpd/nss_error_log に以下のメッセージが記録されていました。

[Tue Nov 05 14:27:40 2013] [error] Certificate not verified: 'Server-Cert'
[Tue Nov 05 14:27:40 2013] [error] SSL Library Error: -8181 Certificate has expired
[Tue Nov 05 14:27:40 2013] [error] Unable to verify certificate 'Server-Cert'. Add "NSSEnforceValidCerts off" to nss.conf so the server can start until the problem can be resolved.~

Add "NSSEnforceValidCerts off" to nss.conf
とあったため、/etc/httpd/conf.d/nss.conf ファイルの先頭に以下の1行を追加しました。

NSSEnforceValidCerts off

(参考:centos5.2 phpMyAdmin設置とnss.confの設定

以前はこのnss.confを修正することなくhttpdは起動していたのですが、これは Apache 2.2 系列からhttpdサービス起動のためにはnss.confファイルの編集が必要になったらしく、自動的にApache 2.2系列にアップデートされたことが原因かなと推測しています。

nss.conf修正後に /etc/init.d/httpd restart を実行したところ無事httpdサービスは起動し、Gangliaによるブラウザ上でのサーバ稼働状況を確認に可能になりました。

理系のための人生設計ガイド 坪田一男著

ブルーバックスから発売されている「理系のための人生設計ガイド」を読みました。

理系のための人生設計ガイド―経済的自立から教授選、会社設立まで (ブルーバックス)

理系のための人生設計ガイド―経済的自立から教授選、会社設立まで (ブルーバックス)

この本では研究活動そのものに関連するアドバイス(論文の書き方等)ではなく、研究者としてのキャリアを築いていく上のアドバイスが中心となっています。

私が個人的に強く興味を持った部分は以下の通りです。

第3章 経済編 「研究者こそ経済的自立が必要だ」

教員になったとして得られる年収は・・・その金額で子供を養うことを考えると学費、生活費がこれだけかかって・・・収入を増やすにはアルバイト(著者は医学系なので病院でのアルバイト)や講演料も重要で・・・

といった具合に研究者としてのキャリアと人生で必要となるお金についての話があり、なかなか面白く読めました。

第6章 ポスト編 「母校の教授になるために」

とにかく母校である慶応大学の教授になりたい!と考えていた著者がいかにして希望通りに慶応大学教授になれたかを説明されています。

教授というポストの審査がどのように行われているかという情報はほとんど表に出てこないものだと思いますので、この章の内容はかなり興味深いものでした。


他にもノーベル賞を狙う気持ちで研究をする といった具合にいろいろとためになる内容が多かったです。


ブルーバックスで1,000円でお釣りがくる手ごろな価格の本ですので、アカデミックな世界で生きていこうと考えている人であれば読んでおくとかなり参考になると思います。


なお、この著者の坪田一男教授は、より研究活動そのものに重点を置いた本も執筆されており、こちらも近いうちに読んでみたいと思っています。

理系のための研究生活ガイド―テーマの選び方から留学の手続きまで 第2版 (ブルーバックス)

理系のための研究生活ガイド―テーマの選び方から留学の手続きまで 第2版 (ブルーバックス)

はてなダイアリーからはてなブログに引っ越しました

先月末(10/31)からなぜかGoogle Analyticsに集計されるアクセス履歴がモバイルからのアクセス(URLに /touch/ がつくもの)のみしか集計されなくなりました。

調べてみても対応策がわからなかったので、これをきっかけに以前から考えていたはてなダイアリーからはてなブログへの引っ越し作業をすることにしました。

はてなダイアリーは昔からあるサービスですが、新サービスであるはてなブログ公開後は新機能の実装等がされなくなっており、いずれはてなブログに統一されそうだというのもはてなブログに移行した理由です。

はてなダイアリーからはてなブログへの移転は簡単

両方とも運営元がおなじはてな社なだけあり、はてなダイアリーからはてなブログへの移転作業は極めて簡単でした。
はてなダイアリーからのインポート(ブログの移行) - ヘルプ - はてなブログ

はてなブログに移転後はGoogle Analytics等の外部サービスとの連携を改めて行いました。
はてなブログで Google Analytics を使う時の設定方法 - つばき さざんか 茶飲んでずずず

ちょっと触った感じでは、はてなブログの方が新しいサービスだけあって入力も快適になっている感じです。

Xeon E5-2697v2 搭載24コアマシンの性能と消費電力をチェック

先月記事にしたように(Ivy Bridge世代のXeon E5-2600 V2 の最上位CPUを比較)、2 CPU構成が可能なIvy Bridge世代のワークステーション向け新CPU Xeon E5-2600 v2シリーズが発売されています。

先日、最上位の12コアCPU Xeon E5-2697 v2 を2CPU搭載したマシンを試す機会がありましたので、性能と消費電力調査を行いました。

Xeon E5-2697 v2 のスペック

コア数 12 core (HTT on ならば 24 thread実行)
CPU周波数 2.7 GHz
ターボ時最大周波数 3.5 GHz
TDP 130 W

なおフルコア使用時はターボブーストにより規格周波数より0.3 GHz 高い 3.0 GHz で動作していました。
(調べる方法は以前の記事を参照 CentOSにおけるintel CPU ターボブースト動作の確認

AMBER pmemd 並列計算結果

AMBERによるOpen MPI を用いたフルコア使用での並列MD計算時間を調査しました。
 計算系:約45000原子の周期境界系、ハイパースレッディングはOFF
同じMD計算を実行して終了までにかかった時間を計測

搭載CPU 並列数 計算時間
Xeon E5-2697 v2 (12 core) × 2 24並列 1149 sec
Xeon E5-2670 (8 core) × 2 16並列 1659 sec
Xeon E5-1650 (6 core) × 1 6並列 3725 sec
Xeon X5680 (6 core) × 2 12並列 2498 sec

前世代の Sandy Bridge 世代のCPU(Xeon E5-2670)よりコア数が1.5倍(8 core → 12 core)になっている分、早くなっている感じです。

消費電力

ワットチェッカーで消費電力を実測しました。

サンワサプライ ワットチェッカーplus TAP-TST7

サンワサプライ ワットチェッカーplus TAP-TST7

搭載CPU 待機時消費電力 フルコア使用時消費電力
Xeon E5-2697 v2 (12 core) × 2 126 W 356 W
Xeon E5-2670 (8 core) × 2 116 W 330 W
Xeon E5-1650 (6 core) × 1 77 W 198 W
Xeon X5680 (6 core) × 2 163 W 316 W

Xeon E5-2670 と比べるとコア数が1.5倍になっているにもかかわらず、負荷時の消費電力はわずかに26 W 増えただけでした。

なお消費電力は走らせるジョブの性質に依存して変わります。
今回のMD計算はほぼCPU負荷オンリーでメモリ・IO負荷はほぼ0なので、メモリを酷使するようなアプリケーションだとより大きな消費電力になると推定できます。

ノーベル化学賞を共同受賞したWarshelとKarplusは複雑な人間関係?

昨日発表があった2013年のノーベル化学賞は、Martin Karplus, Michael Levitt, Arieh Warshel の3人がマルチスケールシミュレーションの業績で共同受賞しました。

3人は分子動力学計算プログラムCHARMMの開発等で共同で研究していた時期があるため友好的な間柄にあると推測できるのですが、どうも発表されている論文でのやりとりを見るとWarshelとKarplusの間柄は単純に友好なものとはいえないのではないか?と感じる部分があります。

論文の内容をめぐるKarplusとWarshelのやりとり

2007年にKarplusは実験家のグループと共にアデニル酸キナーゼという酵素タンパク質の酵素反応に関する論文をNatureに発表しています。
その結果を受けてWarshelは2009年に別の論文で反論を行い、それに対するKarplusのコメントとWarshelのさらなるコメントが2010年に論文誌に載りました。

ものすごくざっくりとまとめた内容は以下の通りです。

2007年 Karplusグループの論文 Nature 2007, 450, 838–844.
・実験とシミュレーション結果を総合すると、アデニル酸キナーゼの構造ゆらぎは酵素反応を促進するような成分を持っているようだ。

2009年 Warshelグループの論文 PNAS 2009, 106, 17359–17364. オープンアクセス
・アデニル酸キナーゼの粗視化モデルシミュレーションを実行したら、構造揺らぎは酵素反応を促進しないという結果になったぞ。

2010年 Karplusからのコメント PNAS 2010, 107, E71 オープンアクセス
・2009年のWarshelの論文のシミュレーションは我々の2007年の論文と見ているプロセスが違うし、シミュレーションで使ったアデニル酸キナーゼの実験値(k_cat)に問題があるし、粗視化モデルにも問題があるぞ。

2010年(上のコメントと同時掲載)コメントに対するWarshelの返答 PNAS 2010, 107, E71 オープンアクセス
・我々の2009年の論文のシミュレーションでは実験値(k_cat)は単なる一例として使っているだけでkcatの大小は論文の結論に影響を与えないし、粗視化モデルだってちゃんとチェックしたぞ。


科学者同士が解釈をめぐって議論を交わすこと自体は珍しくないのですが、最後のWarshelからKarplusへのコメントに対する返答がかなり辛辣な表現を使っているように感じます。

例えばこんな表現があります。

Readers who are preoccupied with the exact source of k_cat are welcome to embrace the idea that enzymes work by dynamics.
(私の訳)正しい k_cat に没頭している読者はどうぞご自由にダイナミクスが酵素活性に重要だという意見を持っていてください。

意見が異なっておりk_catについて指摘した Karplus に対して辛辣に「そんなことを言うならば、どうぞあなたはそう思っていてください」という突き放した雰囲気を感じてしまいます。


ノーベル賞が伝えられた直後のWarshelに対する電話でのインタビューが公開されていますが、ここでも

[インタビュアー] It must be very nice to be linked together with Martin Karplus, and particularly Michael Levitt, with whom you've worked so closely.
[Warshel] Yes, particularly with Mike, yes.

(私の訳)
[インタビュアー]一緒に仕事をされていたMartin Karplus, Michael Levittとの共同受賞とは素晴らしいですね。
[Warshel]そうですね、特に Mike (おそらくMichael Levittのこと)とは。

と、Karplusのことはスルーしているように感じられます。


12月上旬にノーベル賞授賞式があるわけですが、その場でKarplusとWarshelはどのように振る舞うのかが気になるところです。

2013年ノーベル化学賞は多階層シミュレーション(QM/MM計算)の3人に

さきほど2013年ノーベル化学賞が発表され、 Martin Karplus, Michael Levitt, Arieh Warshel の3人が「for the development of multiscale models for complex chemical systems (複雑な化学系のマルチスケールモデルの開発に対して)」の仕事で受賞しました。

受賞した3人とも分子動力学シミュレーションで世界的に使われているプログラムパッケージ「CHARMM」の開発に携わっています。(私はCHARMMは使ったことが無く、あまり詳しくはないのですが)

ちなみにCHARMMと双璧をなすもう一つの有名なプログラムパッケージ「AMBER」の開発者である Peter Kollman は既に亡くなられており、もしご存命でしたら今回受賞されていたかもしれません。

マルチスケール(多階層)モデルのシミュレーションとは

今回の受賞では「multiscale models(多階層モデル)」という言葉が入っています。

これは「計算量は小さいが化学結合の切断を表現できないニュートン方程式に従う古典的計算」と「計算量が大きいがきちんと電子の状態を解くシュレディンガー方程式をベースとする量子的計算」を組み合わせる手法となっています。

(古典的な計算(MD計算)の動画はいくつか作成してアップロードしていますので、興味のある人はこちらを見てください

原子の数が増えると量子的計算では爆発的に計算量が増えますが、古典的計算では計算量の増え方は穏やかです。
そこでこの両者の手法を組み合わせたわけです。

この組み合わせ計算はよくQM/MM(Qmantum Mechanically 量子力学的/Molecular Mechanically 分子力学的、古典的計算のこと)と呼ばれ、最近では非常によく使われる手法となっています。

これは以前書いた記事(諸熊奎治先生 文化功労者に選ばれる)で出てきたONIOM法もQM/MMに近い思想の計算方法です。
諸熊先生の貢献もノーベル賞サイトのプレスリリース資料に記述されており、同じ分野の受賞は喜ばしいとコメントを出されています。
ノーベル化学賞逃し…諸熊教授「同じ分野の受賞、喜ばしい」


例えばタンパク質の性質を計算したい場合、古典的計算は計算量が少ないのでタンパク質まるごとの数万〜数十万原子の計算を行うことは十分に可能です。

その代わり古典的計算では計算できることは限られており、化学結合の切断、生成といった反応を取り扱うことはできませんし、電子状態を計算して電子分布の偏りをチェックしたり、福井先生のノーベル賞で有名なHOMO/LUMOといった電子軌道の解析も不可能です。

かといって電子状態をまともに計算する量子的計算は計算量が極めて大きく、現実的に計算できるのは数百原子程度が限界で、タンパク質まるごとの量子的計算をすることは現在のコンピュータ資源ではたとえスパコン「京」を使ったとしても難しいのが現状です。
(2013/10/10 01:08 追記 フラグメント分子軌道法等の大きな系の量子的計算を実現するアルゴリズムを使えばタンパク質まるごとの量子的計算も可能になりつつありますが、それでも分子動力学計算のように量子的計算を何度も繰り返す用途に使うには計算時間がかかりすぎるのが現状です。)


例えば下の図は2008年のノーベル化学賞であったGFPタンパク質ですが、このタンパク質の「色」を調べるためには量子的な計算をして電子状態を知る必要があります。

しかしながら周囲の水分子を含むタンパク質全体を量子的に計算することは計算時間がかかりすぎて不可能です。

そこでタンパク質内部に埋もれている色素の部分だけは量子的に計算し、その周りは古典的に計算するという今回の受賞対象の手法QM/MM計算が使われるわけです。
(当然ですが量子的な計算の部分と古典的な計算の部分をつなぐためにはいろいろな工夫が必要となります)


他にも酵素タンパク質に対しては、化学結合の切断や生成等の化学反応を起こす部位だけは量子的に扱い、その他のタンパク質や水溶媒の部分は古典的に計算するQM/MM計算も頻繁に行われています。

また創薬を目的として、ある薬の候補となる分子がターゲットタンパク質の特定部位とどれだけ強く結合できるのかどうかを精密に計算するために、結合に重要な部分だけは量子的に計算して精密な相互作用計算を行うことも行われています。


酵素反応の解析、創薬のための精密な相互作用計算等、さまざまな応用にも展開されており、QM/MM計算はノーベル賞を受賞するに十分に値する強力な計算化学手法となっているわけです。

続きを書きました
ノーベル化学賞を共同受賞したWarshelとKarplusは複雑な人間関係?

参考文献

QM/MM計算の応用等、分子シミュレーション分野の最新の知見がまとめられています。

2013年ノーベル生理学・医学賞「小胞輸送」について3時間で勉強してまとめてみた

先ほど今年のノーベル生理学・医学賞が発表されました。

http://www.nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2013/press.html

受賞者は「小胞輸送」という現象の解明をしたアメリカの3教授(James E. Rothman, Randy W. Schekman and Thomas C. Sudhof)です。

手元にあった分子生物学の定番の教科書「Molecular Biology of THE CELL 細胞の分子生物学 第5版」をチェックしてみたところ、1つの章(第13章)がそのものズバリ「細胞内における小胞の移動」となっており、教科書の章1つに相当する重要な発見だったことがわかります。

細胞の分子生物学

細胞の分子生物学

そこでノーベル賞プレスリリースとこの教科書13章を読んで、「小胞輸送」という現象のエッセンスと受賞した3人の業績を3時間ほどでまとめてみました。
(専門の方から見て変なところがあったら是非つっこんでください)

小胞輸送とは

小胞輸送とは何かといいますと、細胞内のタンパク質等の物質を正しく輸送するために細胞内で起きている現象です。

例えば細胞内でのタンパク質合成は小胞体という部分で行われますが、小胞体で合成されたタンパク質はそれぞれ仕事をする場所に運ばれる必要があります。

この輸送の第一段階として、まず輸送されるタンパク質が集められ、小胞として放出されます。

この放出された小胞はタンパク質を必要とする組織まで運ばれ、その組織と小胞が融合することでタンパク質が供給されます。

このようにタンパク質等の物質を細胞内で輸送する現象が小胞輸送です。

Randy Schekman 博士は小胞輸送に重要な遺伝子を発見

小胞は供給元から供給先まで正しく輸送される必要がありますが、この輸送に関わる遺伝子をRandy Schekman博士は発見しました。
酵母の細胞である遺伝子を壊すと輸送が正しくおこなわれず、小胞の分布が変に偏ることを示して輸送に関わる遺伝子を特定したのです。

James Rothman 博士は小胞の運び先を特定するタンパク質を発見

小胞は正しい相手にだけ中身を渡す必要があり、相手の種類を認識する必要があります。
この認識は小胞表面および運び先の組織の表面に存在するタンパク質の組み合わせによって行われていることをJames Rothman博士は発見しました。

Thomas C. Sudhof 博士は小胞の中身が放出されるタイミング制御機構を発見

小胞輸送は化学物質の放出によるシナプス間での神経伝達でも利用されています。
神経を伝わる信号は正しいタイミングで伝えられないと非常に困ったことになりますが、このタイミング制御のメカニズムをThomas C. Sudhof 博士は発見しました。

下の図はカルシウムイオンによるタイミング制御が行われる様子の模式図です。
シナプス表面には神経伝達物質を含む小胞が集まっており、そこにカルシウムイオンが流入してくるとそれをトリガーとして小胞がシナプス表面の膜と融合して正しいタイミングで神経伝達物質が放出されます。
このようにカルシウムイオンを検知して小胞の融合を引き起こす小胞表面のタンパク質をThomas C. Sudhof 博士は発見しました。